Cinema Review

Gravity

Also Known as:ゼロ・グラビティ

監督:アルフォンソ・キュアロン
出演:サンドラ・ブロックジョージ・クルーニー

人工衛星の修理作業をしていたところに無数のデブリが襲来する。生き残った二人のクルーは帰還を目指す。誰も居ない宇宙で。

IMAX 3D で見た。Trailer の恐るべきグルグル映像を見てしばらく、これは劇場で目を回すに違い無いという恐怖心と、しかし見なければならない、という良く分からない心の声に挟まれて悶絶していたが、知人らに背中を押されて 3D で、それも IMAX で見ることにした。そして見て良かった。IMAX 3D で見て良かった。映像はとにかく素晴らしい。これほど IMAX 3D にマッチする映像もなかなか無いように思う。

内容的にはロードムービーだなあ、と思った。いきなり事故が起き、有無を言わせず主人公(サンドラ・ブロック)は地球を目指す強制的な旅へと放り込まれる。脱出劇でもあるが、僕の中ではこれはロードムービーだ。ベテラン・パイロット(ジョージ・クルーニー)が泣きの入った主人公を引きずりながら旅をはじめる。パイロットは途中で命運尽きるが、主人公はそれまでの道程で再び生への執着を取り戻し、何とか帰還を果たす。これは旅を通して彼女が再生される物語でもある。短いけど。
そうこの映画は 90 分ほどしかない。でも個人的にはこのくらいバッサバッサと切ってくれるほうが好みだ。あっさりと命運尽きたジョージ・クルーニーも含めてバッサリサバサバと切ってくれて気持ち良かった。

さて映像の話をしよう。僕は映画をほとんどその映像(と効果音)でしか見ていない。だから僕は 3D がキライだ。まずピントが合わない。だから解像度が低い。そしてフレームレートが半分に落ちてしまうので絵がバタバタして見える。
今回もそこは同じだったが、IMAX 劇場の、それも(既に見た人の意見を見て)少し前の方の席を取ったことで、視野いっぱいに拡がる巨大な映像を、体にドスンドスンと響く大音響で見る事になった。これが没入感を無理矢理に高める。
そのせいもあって、始まってしばらくして一度、無重力状態でゆっくり回転する映像に思わず自分の体が反応してしまった。映像に合わせて体が回ろうとする(頭と体が傾く)のだ。いけないいけない、これでは目が回る!(当然椅子などに当たって思うように動けなくなるのだけれど、その瞬間に体が「違う!」と警報を出すのがとても気持ち悪く、それを続けると間違い無く目が回る)と思って何とか踏みとどまった。

それでも90分、ほぼ全編ぐるんぐるん or ゆらゆらしてたせいもあって、劇場を出たときドッと疲れた感じがした。映像から来る圧力、圧迫感の強さもちょっと無い体験だと思う。これは劇場で、椅子にくくりつけられて見せられるしか味わう方法がない種類のものだ。これのためなら僕の嫌いな 3D 映像の悪いところと差し引きしても良いか、と思える。

ところでこの作品、実質二人しか俳優が出てこない。そして一人称視点の映像が頻出する。最後の地上のシーンも含めて、いったいどこまでが実写で、どれが CG なのかほとんど分からない。背景などを含めて絵のほとんどの部分が CG だということはもちろん分かるのだが。無重力シーンの撮影も一体どこまで実際に撮影したのだろう。『アポロ13』では無重力シーンはかなり自由落下中の飛行機内で撮った映像が使われていたというが、この作品ではひょっとしたらそれは一切無く、全部 CG なのかもしれない、と思ってしまう。
実際、エンドロールにものすごい数の CG クルーの名前が並んでいた。

おまけの小ネタ。なんとエド・ハリスがミッション・コントロール役(声だけ)だった。もちろん『アポロ13』への敬意を示すものだろう。監督のキュロンソは僕は記憶が無かったが、2004年に『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の監督をしていた。2006年に『パンズ・ラビリンス』に関わっているが、当然監督ではなく(それはギレルモだ)製作。

最後にタイトルについて。邦題は『ゼロ・グラビティ』なのだけれど、原題は『Gravity』。つまり意味がまったく逆。作品の最後に、主人公が重力の強さをかみしめるシーンがあるが、それこそがこの作品の主張だったのだなあ、と思える。映像作家が描きたかったのは無重力での何かではなく、重力、この大地を描きたかったのだなあ、と。

Report: Yutaka Yasuda (2014.01.03)


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