抜かれた歯。吊られた死体。現場に残された COME AND SEE の文字。黙示録との符号。良い絵と、テンポのサスペンス。
『セブン』『クリムゾン・リバー』のように、幾らか宗教がかった筋書きを舞台装置にちりばめながら進行するサイコ・サスペンス。(挙げた両者がそうであるように)当然ながら事件は非常に猟奇的でなければならない。そして映像が美しくなければならない。
が、この作品は一線を越えている。猟奇的にすぎる。絵、カットもまたキレイすぎる。かっこいい絵を撮る人だと思う。
ともかく『Cell』などに引っ張られる事から丸分かりだけれど、どういう訳か僕はこのあたりのパーツをセットで出されるとかなりの高率でひっかかってしまう。つまりはミーハーということなんだろうけれど、さて、なんだろう。
本作の話に戻るとして、チャン・ツィイーがやはり目立つ。目立つ俳優がほとんど全く出てこない中での紅一点、それも唯一の東洋系ということで否が応でも目立つ。そのため彼女がやったのだと丸分かりなのだが、演出上はそれを隠そうとしていない。案の定、刑事役のデニス・クエイドと話すシーンがあり、不穏な空気が大変あからさまに流れるのだが、次の瞬間の衝撃、その飛躍に目がくらむ。
その瞬間を境に極端にチャン・ツィイーの見せ方ががらりと変わるのはやり過ぎで逆効果と思うのだけれど、その両面が実に彼女らしくて良いキャスティングだなあと思ってしまう。
もう少し書いておこう。個人的にはむしろずっと登場時のような純朴そうな服装、メイクのまま、中途半端なところを飛ばせれば良かったのではないかと思える。悪夢を覚ますように顔を洗い、スローモーションで取調室に向かう刑事が立ち向かうのが不安そうにうつむく純朴な少女である方がよほどアンビバレントで不安定な構図になる。なのにこの時から彼女は不敵な笑いを浮かべて挑発的な態度をとる犯罪者になってしまっている。もったいない。
ともあれ、オープニングが面白い。本当に絵柄のためにだけこのシチュエーションを選んだのか、と思える構図。冒頭に雪原で犬というと『遊星からの物体X』を思い出してしまう。ひょっとして監督、好きなのか。
もうひとつ、エンディングについて。ハリウッドらしくなく、突然に終わる。『ロスト・ソウルズ』と似た印象。最近はこういうのも受け入れられるようになったのかな、と思う。