Cinema Review

百万円と苦虫女

監督:タナダユキ
出演:蒼井 優森山 未來、笹野 高史

100 万円たまったら引っ越す。そう宣言して彼女は家を出た。

昨夜、劇場で、見た。

パンフレットに監督がなかば蒼井優で当て書きした、とあった。僕が彼女をスクリーンでちゃんと見たのは初めてではないか?それにしても細い。テレビ放送で見た『フラガール』ではそんなことなかったように思うので、このときたまたま細かったと言うことか。

主人公である彼女は何というか奇妙な女の子で、観客の感情移入もだからまっすぐにははまらないように作られている。ええっ、そう来ますか?そっちですか?と思われる言動が多いのもその一つ。ラスト近く、弟からの手紙を見て大泣きして、心を入れ替えて真っ当に家族や地域、つまり自分に対する係累と向き合ってやり直すか、と思うとちっとも反省していない。おいそりゃ間違ってるだろう、と突っ込んでしまう。
それでも主人公がただの馬鹿女に見えないところはもう蒼井優の為せる業としか言いようがない。本当、彼女にしかできない役かなあと思う。

あと、森山君をちょっと見直した。あまり好きなタイプの俳優ではなかったのだけれど、本作では最後まで善良な青年なのか、そういう振りをしている性根の悪い奴なのか、わからない。それがいい。

森山君に限らない。全体に非常に不安な演出がなされていて、それが観客にさまざまな疑念を湧かせる。どっちに転ぶか判らない。たったワンシーン、一言で全部ひっくり返るんだぞ、お前はどっちだと思ってる?ん?と聞かれている感じ。安定的なストーリーに身を任せたい、という見る側の気分にイヤミったらしく問いかけてるよう。

ラストでハッピーエンドの雰囲気をモウモウと立たせておきながら、蒼井優が『くるわけないか』と言って本作は終わる。ええー、そっちに落ちましたかそうですか。とその時は思ってしまったが、逆に森山未來のアップで『ま、いっか』とか言うワンショットで終わることもできる。あるいは『くるわけないか』の後にそれを追加するとどうだろう。

一歩違う道を進めば、まるで RPG のように違う未来が待っている。ロードムービーなんだなあ、と思う。僕は余り好きではないのだけれど、ロードムービーが若い人たちに受け入れられるのがなんとなく判った。

Report: Yutaka Yasuda (2008.12.20)


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