Cinema Review

イースタン・プロミシーズ

Also Known as:Eastern Promises

監督:デビッド・クローネンバーグ
出演:ヴィゴ・モーテンセン、ナオミ・ワッツ、ヴァンサン・カッセル
音楽:ハワード・ショウ

14歳の少女が破水した状態で病院に運び込まれてきた。子供はとり出すことが出来たが少女は助けられなかった。少女を強姦したのはロシアン・マフィアの人間だった。

ヒストリー・オブ・バイオレンス』に続くクローネンバーグの新作である。例によって彼の作品は「見なければならない」ので、迷わず見た。

前作を僕は激賞しているが、今回も全体の雰囲気は同じ。ドライな絵と、効果音などのほとんど入らない静かな描写の組み合わせだ。音楽ハワード・ショウ、衣装デニース・クローネンバーグなども同じ。暴力がテーマになっていることも同じで、このあたりかなりダブる印象もある。そもそも主演が同じだ。クローネンバーグ作品でスタッフがおおよそ同じチームでやることは多いが、主演が連続というのは珍しいのではないか。

どこかのインタビューでクローネンバーグは「できるだけ観るものに不快な感覚を与えたかった」というようなことを言っていた。ひたひたと迫ってくる暴力の淵、その崖っぷちをふらふらと歩いてしまう女医。個人的には大変に差別的で対象の否定が嫌悪と必ずセットで、それも攻撃的な形で現れざるを得ない父親にとりわけ不快感を持った。この種の、この年齢層の人は僕は駄目だ。なんなんだろういったい。

聞き取りにくいロシア語的英語だったことと、字幕なし状態だったので細かいところがよくわからなかった。『ディパーテッド』も似たような感じで見ており、後で見直してああそうだったのね、と思い直したところが幾つかあった。しかしこの作品は多分セリフでああそうだったのねと思うところがあったとしても、ほとんど作品鑑賞としての影響はなさそうに思える。『ディパーテッド』のマーティン・スコセッシも映像で語る作家だと思うが、クローネンバーグは彼以上に言語以外の、脳に直接作用するような部分の度合いが高いということか。思えばクローネンバーグはずっとその領域へのアクセスを試み続けているのではないか。「できるだけ不快な感覚を」ということの意味が分かる。

ただ、終わった後で前作ほどの思いがしない、シーンを思い出すことがない、ということはやはり『ヒストリー・オブ・バイオレンス』は名作だったということか。

Report: Yutaka Yasuda (2008.03.31)


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