「宝町」には二人の餓鬼がいた。クロと、シロという。ヤクザ、刑事、実業家、殺し屋。彼らの間を縫って、クロが跳ぶ。
僕は、『鉄コン筋クリート』を、読んだことが、ない。
と書くと松本大洋ファンから正拳突きを食らいそうだが、まあ彼の漫画はとにかくほとんど読んだ事がない。なんだか絵があまり好みでなかったからか。『ピンポン』も映画で見て、その後途中まで読んだ、くらいか。今度は二段蹴りを食らいそうだ。
果たして映画はものすごい、としか言いようがない。この表現というか手法にはちょっと驚いた。完全に二次元世界の人物描画と、テクスチャマッピングで作られたであろう文字通り「書き割り」の背景がみごとに合っている。すごい。(僕は余りアニメーションを見ないので、いまどきの日本のアニメーションはこんなもんだよ、という話だったら失礼。まあここはレビュアの主観を書く場所なので。)
監督はこのアニメーション用のマッピングに関するソフトを開発した人でもあったらしく、まあこれは漫画のある一つの映画化手法になり得るかなあ、と思ってしまった。それくらいの完成度を感じる。
動かさんがための単純描線+減色ベタ塗りが従来的アニメーション制作手法(セル画)の一つの制約だったわけで、動かない背景はこの制約がないために比較的重厚な絵を置く事が以前からできていた。が、それは下手をすると背景とセルの動画部分の質が合わず浮いてしまうわけだが、本作の方法でなら「動く(カメラ視点を動かせる)背景」でありながら、大量にレイヤーを重ねてぎっしりと違和感のない絵をつくりあげることができる。下手をすると技術的には可能でも、見た目が違和感ギッシリのものになるかも?とも思ってしまうが、ともかく彼が作り上げた映像はそんなことを感じさせない。街の遠景を単純な線で描画せず、大量の建物(オブジェ)を押し込んで動かした事も効いているはずだ(少量の平面的な書き割り背景を3次元的に配置して動かすとひどく貧相に見えるものだ)。ああ、DVDでなくフィルムで見たい、と思ってしまう。
内容的な部分については、恐らく原作を読んだ方が僕にはドシンと来るんじゃないかと思えるが、ともあれ映像的にはこりゃすごい、という印象だった。とりあえずそのことを書いておこうと思う。
大友克洋の『砲台の街』でも似たような事が行われていたと思うが、見た目の衝撃についてはこちらの方が上だ。本作の下町というか工場街のギッシリ感と、それに合う派手な配色が、煙ったような暗い背景で埋めた大友さんの作品よりもインパクト強かった、ということなのかなあ。