30 歳になって熱心にトレーニングをする女性ボクサーと、老いた名トレーナーの交流をゆるやかに描く。
決して長くない、一年少しという時間の流れを、淡々としかし丁寧に描いている。クリント・イーストウッドのテイストは『許されざる者』『ミスティック・リバー』で少しずつ馴染みができてきたが、この作品は今までにもまして淡々と話が進む。なお音楽もイーストウッドによる。劇中に音楽がほとんど掛からない、静かな映画だった。
ところで老人二人の掛け合いが非常におかしい。チーズバーガーをめぐってのやりとりは傑作だ。たかがチーズバーガー。一方は何てことない、と言うのだが、貰った方はいま天地がひっくり返ったように大げさだ。互いに老人だから調子は穏やかだが、その言葉のそれぞれご大層さに僕は劇場でくっくっくっくっと笑ってしまった。
さて、一つ問題がある。実は余り書きたくないのだ。
相変わらず情報がない状態で見たので、途中からの展開に驚かされたりはしたものの、全体的には何というか、ちょっと困った印象だった。
アメリカの小説(作家が米国人の意)を読むと、僕はいつも同じ印象を得る。といっても本を読まない僕のことだからアメリカの小説といったって数えるほどしかないのだが、、、ヘミングウェイを幾つか、『マクリーンの川』『キングの身代金』とあとは何かな、、、
いつも渇いた感じ、というか、平板な印象を受ける。淡々と物語が流れ、あとには渇いた大地と乾いた風だけが残るような、何というか独特の読後感なのだ。爽やかな風、というのではない。なんだか渇いた感じだ。この映画はいわゆるドラマという奴で、まさにドラマチックな展開を見せる。しかしまるでアメリカの小説のように、その読後感は僕の心に形となった何も残さない。ひゅーっと風が吹いて全部もっていってしまったようだ。