Cinema Review

ミスティック・リバー

Also Known as:Mystic River

監督:クリント・イーストウッド
出演:ケビン・ベーコン、ショーン・ペン、ティム・ロビンスローレンス・フィッシュバーン

一つの殺人事件をきっかけに、幼い頃、ともに過ごした三人がその街で再び一つに合わさっていく。一人は被害者の父として。一人は刑事として。もう一人はその容疑者として。

オープニングで彼らの街の横を流れる川が写る。題名は MYSTIC RIVER だが、それほど霧が濃いわけではない。霧に包まれているのはむしろ彼らの25年だ。あの事件からの25年。それぞれに霧で包まれた時間を彼らは抱えながらその街で暮らしている。

人間には記憶がある。忘れるという機能は神様がくれた人間にとって最も大切な脳の機能だというフレーズを聞いたことがある。しかし忘れられないものもある。何かの理由で人間は違う道を歩く。あの時あれが起きなかったら、あの時あの男に会わなかったら。
街を流れる川の水もまた戻すことはできない。石に当たって右に分かれるか、左に分かれるか、その先で同じ流れに合わさるものかどうか水には分からない。

忘れられないこともある。それが自分を戻れない方向に押し、記憶の底に積もっていく。そうしてできた今の自分が次の分岐をどちらに分かれるか決めていく。違う道に分かれたら、もう戻れない。人間の脳はそういうふうにできているようだ。人間の心はそういう風にしかプログラムできないように思える。

男たちに降りかかった 25 年前の事件は否応なく彼らのその後を変えただろう。それからそれぞれに異なる道を歩いた。何が今の彼らをそうさせたのか、25 年前の事件だけではない。それが全てでは決してない。多くのことが少しずつ、戻れない時間を積み重ねさせる。

不可避で、不可逆な毎日を僕らも過ごしている。恐るべき毎日だ。

Report: Yutaka Yasuda (2004.09.25)


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