Cinema Review

ビッグ・リボウスキ

Also Known as:The Big Lebowski

監督:ジョエル・コーエンイーサン・コーエン
出演:ジェフ・ブリッジス、ジョン・グッドマン、ジュリアン・ムーア、スティーヴ・ブシェミ

日々をただぶらぶらと過ごしているヒッピー崩れの駄目男が、ある日突然ぶちのめされる。しかしそれは人違いだった。カーペットの弁償を求めて人違いの元をたどったことがきっかけで、なにやら話はおかしな方向に転がっていく。

いつ公開されたのだったか、相当に古い作品だったとおもう。この作品を僕は公開当時知っていたが見なかった。何故だったかは忘れてしまった。
思い出して録画していたものを見た。面白かった。全体にナンセンスな味付けがされているがそれにしても謎が多い。複雑に入り乱れたまま物語は進行していく。過程で示された謎のかなりの部分は残されたままに終わる。よくあるハリウッド作品とはひと味違う、コーエン兄弟ならではの感触か。僕は彼らの作品を殆ど見ていない。『ファーゴ』も劇場ではなく後にビデオを借りて見た。カナダの冷たい、白夜の空気が伝わってきた。地味なストーリーだがぐいぐいと引っ張られて見た記憶がある。

ファーゴ』は落ち着いた構図、流れの作品だったが、この作品は凝った構図と予想に反した展開が骨になっている。コーエン兄弟からは、ウォシャウスキー兄弟の『バウンド』や、ジュネ&キャロの『ロスト・チルドレン』などと共通のテイストというか感触が僕にはあるのだが、こうした落ち着いたトーンの作品は他の作家たちからは余り想像できない。コーエン兄弟の才能はその意味でヘリ(縁)が見えない部分があっておもしろい。

ともかく。

僕は今回大いに笑い、込み入ったストーリーのなかをあちらへこちらへと泳がされ、またそれを楽しんだ。出てくる人物、出てくる人物、どれも突出したキャラクター、いやひどい欠陥と言うべき個性を持っている。見るからにぐにゃぐにゃで駄目駄目な主人公。すぐ人を怒鳴りつけ、戦争の話と銃を順繰りに持ち出し、大騒ぎする大男。温厚で博愛主義に見えるが人種差別的で激昂傾向が強く、財産目当ての若く派手な女を溺愛する怪しげな資産家。ただそれに追従するだけの執事。その財産管理人で芸術家と名乗る常識がありそうだが完全におかしなおばさん。日常と非日常、正常と異常のきわどさを描きたいのか、風刺なのか、何も考えていないのか。溢れるエネルギーとイマジネーションを丁寧に画面に載せた一品だ。僕はただ笑ってそのすべてを楽しんだ。

他にも多用されるパンフォーカスと、ポップというか(カラーだけど)ハイキーとでも言える印象のあるフィルムの質感など、書きたいことは多いがまあこのくらいで。

=== というつもりでいたがやはり書きたくなってきた。

こういう質感の映像が果たしてデジタルの撮影+ポストプロダクションで出せる日が果たして来るのだろうかと思ってしまう。印刷はインクの調合も合わせて今はほぼアナログ処理だ。その調整はまさに職人芸で、完全にアナログの神の支配する領域と言えそうな雰囲気だ。しかしビル・アトキンソンは大日本スクリーンの神業的技量の老職人と一緒に、完全にコンピュータ・コントロールによる最終段階での色調整を実現するシステムを構築しつつある。デジタルカメラがあげてくる元データからディスプレイ、後処理過程、プリントアウト、最終印刷まですべてをキャリブレーションしようと言うのだ。

映画もそうなる日が来ることを願う。ポスト・プロダクションは非常に重要なテイストを映像に与える過程だと思うのだが、それはまたデジタル処理に非常に馴染む部分でもあるからだ。

Report: Yutaka Yasuda (2004.04.11)


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