Cinema Review

HERO

Also Known as:英雄

監督:チャン・イーモウ
出演:ジェット・リートニー・レオンマギー・チャンチャン・ツィイー、ドニー・イェン、チェン・ダオミン

始皇帝を狙う三人の刺客を討ちとったという男。始皇帝の前に通され、どのように刺客を仕止めたのか話しはじめた。始皇帝まであと十歩。

音楽はタン・ドゥン、撮影はクリストファー・ドイル。始皇帝と男が対面して話す場面はまるで『羅生門』の白洲の場面のようだ。それぞれの言うことがまるで違う。誰が事実をいっているのか。何が本当なのか。

恐らくはその映像美で語られることが多いこの作品、しかしそうした部分がなくともこの作品は、その全体の構成と流れの良さで充分に見るものを魅了するだろう。しかし『羅生門』がそうだったように、また小説『薮の中』がそうだったように、このシナリオには幻想的な描写が良く似合う。不思議なものだが、この種の物語は、話と表現のその両方がともにあってはじめて輝くようだ。

映像についてはさまざまなところでさまざまなことを書かれるだろうから、ここでは見た時の印象だけを。これこそポストプロダクションだ。これこそ CG だ。あり得ない色、あり得ない描写、それがすばらしく映える。僕がはじめて香港映画で CG を見たのは『チャイニーズ・ゴースト・ストーリーIII』あたりではなかったか。CG は肉体を鍛えて全身で表現する香港映画には、恐らくこの先も合わないのではないかと思ったものだが、本作ではそれが実にうまく融合している。CG、そして現代のポストプロダクションの、これがひとつの道ではないかと思う。無論王道である。

極限まで登場人物を削り、シーンを単純化し、実に丁寧に語る。しかし背景セットや周辺の描写には、さらにそれ以上の丁寧さで神経を隅々まで行き届かせる。アクション映画を延々と撮ってきたのではない、文芸作品を撮ってきた映像作家の、これが武侠映画のダンディズムだ。かっこいいぞ。

Report: Yutaka Yasuda (2003.09.15)


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