Comic Review

青少年のための江口寿史入門

作者:江口 寿史

80年代は何もかもが輝いていた。江口寿史も、輝いていた。

主に80年代に江口寿史が描いていた短篇集である。あとがきによればベスト盤のようなものらしい。確かに良い作品が並んでいる。あのころ、何故自分たちが江口寿史が好きだったかがわかる。

そう、思い出さなければわからないくらい、久しく江口寿史を見ていない。『エイジ』以来だろうか。
80年代はあんなに何もかもが輝いていたのに。

そう、君はあの頃をおぼえているか?

スーパーカーブームが過ぎ去り、池沢さとしの『サーキットの狼』も消えたあの頃、僕らはあだち充を発見した。『みゆき』をひたすら読んだ。『陽あたり良好!』までさかのぼって買った。フラワーコミックスだったのが痛かったが。そのままの勢いで『タッチ』に移行し、これもひたすらに読んだ。後にアニメーションになったが、僕はひたすら漫画だけを読んだ。
新谷かおるも読んだ。『エリア88』も、『ふたり鷹』も読んだ。さかのぼった『ファントム不頼』はいまひとつ好きではなかったが、バイクが好きだったので『ふたり鷹』の方は妙に入れ込んだ。後にその路線のファイナリストとして『バリバリ伝説』が出た。まさに衝撃だった。750F をキンキン言うまで回している自分を想像し、NS400Rを振り回す姿を思い浮かべた。しげの秀一はその後パッとしなかったが、最近になって『頭文字D』という、まさにあの頃僕らの世代が走らせていた AE86 と共に帰ってきた。あの頃の輝きも連れて帰ってきたようで、彼はいま実にイキイキと描いている。
宮崎駿も読んだ。『風の谷のナウシカ』だけでなく、多くはない彼の漫画作品を片端から読んだ。安彦良和も漫画を描いていた。『アリオン』を読み、『ナムジ』も単行本が出るのを根気よく待った。

細野不二彦の『さすがの猿飛』『どっきりドクター』、聖悠紀の『超人ロック』、たがみよしひさの『軽井沢シンドローム』。君はあの頃をおぼえているか?

本作の話にもどろう。なかでも『絶食』は珍しく 90 年代の作品である。そして僕の好みの一品だ。楳図かずおのリメイクでネームはほとんど変えていない、ということだからその良さの大半は原作者によるものかもしれない。しかしその映像は実に素晴らしい。江口ってこんな絵が描けるんだ、と思いつつ、彼本来の画力の高さ、みずみずしさを堪能できる。それ以外にも多く彼一流の絵と、彼独特のスパイスの効いた小品が並ぶ。

多くの漫画ファン、漫画家の心を長くとらえ続けて放さなかった江口寿史がそこにいる。最近の漫画ファン、または『ストップ!ひばりくん』しか見たことが無い、という層は、あの 80 年代を堪能するために、買うべし。

Report: Yutaka Yasuda (2002.10.25)


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