彼女は小さなカフェと自室を往復するひそかな生活を続けていた。毎日をただ過ごすだけだった彼女は、突然に人生の転機を迎える。隠された宝物を見つけたのだ。これを持ち主に返しにいくのだ!
映画とは多くの場合イベントをとり上げて描くものだが、何でもない毎日を描いたものもある。ジュネ&キャロは『デリカテッセン』で、少しおかしな、しかしその世界では取り立てて特別ではない日々を描いた。、当時その表現がどうしても僕の好みでなかったために、ジュネ&キャロは僕の視野から外れてしまう一歩前の映像作家だった。ところが一転、『ロスト・チルドレン』で復活。その悪趣味(ご容赦!)な表現に、色彩が打ち勝ったのだ。なんと美しい配色だろう。この作品も、その色彩のために、見るべし。
ただ、その温度感だけはどうにも僕には身の置きどころのないものだった。コメディとしては少し温度感が低い。何か底に冷たいものが流れているようだ。これがジュネ&キャロの味ではないかと思うが、ちょっと僕には辛い。
この作品のメッセージは、何でもない毎日が実は重要なイベントに満ち溢れている、ということだろう。誰も皆、ほんの小さな何かを捜して毎日を過ごしている。淡々としたストーリーが丁寧な絵と配色の中で進む。劇中の人物がそうであるように、ある人はこの作品を幸福を感じながら観るだろう。疎外感や、悲しみを感じる人もいるだろう。街と、劇中の人物と、観客の、それぞれの心の動きがこの作品そのものだ。数多くの劇場で、繰り返されるその上映ごとに、その場はそれぞれの作品として皆の心に残る。あの剥きだしで描かれた心臓のように、皆の心に赤いカタマリとなって残るだろう。
人生は美しいか?楽しむ価値があるか?