Cinema Review

羊のうた

監督:花堂 純次
作者:冬目 景
出演:小栗 旬、加藤 夏希、美波、鈴木 一真、永島 暎子、田中 健、利重 剛、高橋 かおり


同名コミックの実写映画化。私自身、原作者である冬目景の作品のファンであり、その中でも『羊のうた』は一番好きな作品だったこともあって、その映画化を知った時はかなり驚いてしまった。内心、映画化してもおかしくない漫画だとは思っていたので、これが実現したことは正直嬉しかった。
さて、原作を知っている立場で観る私としては、まず原作の雰囲気をどこまで守られているかということが一番気になった。やはりあまりに崩れている作品は観たく無い。しかし、事前に作者と監督が意見の交換などをしていることもあってか、その点は何の心配も無かった。日本情緒溢れる、古風な家屋なども原作のイメージそのものであるし、ストーリーも原作を忠実に描いている。非常に丁寧に映画化されていて、主要人物である一砂、千砂、八重樫も、原作の雰囲気をきちんと受け継いでいた。
花堂監督のセンスが光るところも幾つかあった。血が腕を滴り落ちていくシーンの緊張感や、本人同士が気付いていないニアミスの演出や、発作時のBGM効果など、原作とはまた一味違う魅力があった。
しかしながら、原作のほうがまだ連載中で完結していないこともあってか、前半は原作通りでも、後半は映画オリジナルのストーリーにならざるをえないところがあり、多少強引なところが玉に瑕であった。だが、この終わり方ならば、原作を知っている者でも納得出来るものだったのではないか。これで果たして原作はどう完結するのか、といった別の楽しみも生まれてくる。
冬目景版『羊のうた』は一貫して静かな展開だが、花堂版『羊のうた』は激しい描写が多かった。普通原作を基にした映画というものは、原作を知らなければ面白くないことが往々にしてあるものだが、『羊のうた』に関しては、原作を知らなくても一映画として楽しめると思う。
個人的に最後に出てくるスタッフクレジットが、日本的な縦書きであったことが妙に気にいった。やはり日本語は横書きで上下にスクロールするよりは、縦書きで示すほうが良いような気もする。

<余談>
ちなみにこの映画を観に行ったのは2002年3月31日で、その日には上映後に初日舞台挨拶が行われた。花堂純次監督と、千砂役の加藤夏希が劇場に駆けつけていた。劇中の加藤は艶やかな黒髪で着物姿という出で立ちだったのだが、生の加藤は茶髪の洋服姿だったので、そのギャップの大きさに多少ショックを受けてしまった。しかし生の加藤も感じの良い綺麗な女性であった。花堂監督の映画に対する熱い思いなども色々聞くことが出来た。

Report: AKiM (2002.04.14)


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