殴られたショックによって短期性記憶障害となった男の復讐劇。
秀逸。
としかいいようのない展開。シークエンスを僅かずつ逆戻りしていくことによって、短期性記憶障害の男が生きている、自らの記憶を僅かずつ失っていく世界を疑似体験させてくれる。物語を時系列でない順序で展開していく面白さは『パルプ・フィクション』『SNATCH』でも味わえるが、ある意味これらが時間のずれを気持ち良くおさめてくれるのに対し、この作品は実に気持ち悪く時間を遡る。
そう。この作品を見ていて何が気持ち悪いといって、時間を遡るあのフェイドアウトの瞬間、「ああ、このシークエンスはどっからはじまったんだっけ、次のシークエンスが終った時につながるように記憶しなくちゃ記憶しなくちゃ、、」と脳味噌を回しはじめるところが実に気持ち悪い。まるでサイモンゲームのように何度も自分の記憶を確かめるが、それでも最前の数分間のできごとがどんどんとこぼれ落ちていく、、、
そして最後に主人公が実は自分の記憶を操作していることを知る。彼は人生を何度もやり直しているのだ。数分後の自分が、いまの自分が望む筋書きに進むように、自分の人生を書き直す。自分がすべてを忘れていることを前提に、事実を歪めて記録し、未来の自分へ引き渡す。
もちろん男は自分自身が過去を書き直して生きていることを覚えていない。だからこの次、また同じように過去を書き直して現在をやり直すかどうかもわからない。しかし記録を書き直す男の手際は慣れたものでそれは見事だ。つまり男は記憶障害を起こす前から、生来こうしたことをしてしまう人間だったということか。
人生をやり直すチャンスを与えられた男はしかし、人生の目標を見失っている。人生は一度しかないと信じている僕らは、どうだ。