Cinema Review

ソードフィッシュ

Also Known as:Swardfish

監督:ドミニク・セナ
出演:ジョン・トラボルタヒュー・ジャックマンハル・ベリー

銀行の暗号システムを破って大金の強奪を実行するテロリストと、そのために雇われた世界一級のクラッカーとのやりとりを描く。

アメリカ行きの飛行機の中で、貸し出してくれた超小型の 8mm ビデオつきテレビで見た。スクリーンサイズ 4 inch 程度か。確か予告では『MATRIX』ばりの全周撮影スローで、パトカーなどがふっ飛ぶ爆発シーンが売りてな感じだっかたと思うのだが、この小さなスクリーンではそんなものわからなかった。ちょっと失敗したかも知れない。

主演(僕としては彼が主演でトラボルタが脇)のクラッカー役のにいちゃんが結構かっこよくてよろしい。と思っていたら、彼、『X-MEN』の主演のにいちゃんだった。『X-MEN』でも注目がいったのはこのレビューに書いた通りだが、やはり出てきたか、という気分だ。ふむふむがんばれ。
そしてラテン系とおぼしき助演のおねえちゃんがなかなかグーだと思っていたら、彼女もまた『X-MEN』で Storm 役をやっていたひとだ。なんと素晴らしい。

どうもコンピュータやネットワーク関係の映画というと、現実ばなれした描写などにしらーっとくるものがありがちなのだが、この作品はそれほど問題なく見ることができた。こんな華々しいクラッカーはいないと思うのだが、まあその程度か。
実際のクラッカーはもっと鈍重で、執拗だろう。小説『Take Down』(邦題なんだっけな)でケビン・ミトニックを追跡する下村努などは同様の華々しさで描かれている。ここではクラッカーが悪役で、極めて鈍重で執拗な性質として描かれ、追跡者はスマートで手際良く描かれているが、実際にやっていることは両者ともにそれほどかわらないはずだ。一般の人々が想像するより遥かにその性質や心理は(猜疑心が強く執念深いという点で)病的だ。

少し説明しよう。

コンピュータやネットワークをいじっている身からすると、複雑なシステムに対する知的好奇心(と呼ばれるもの)とデバガメ的ですらある分解趣味は同じものだし、またトラブル切り分け時の徹底した検証主義は、悪意すら感じるような猜疑心に満ち満ちた判断に裏付けられていなければならない。問題の本質を理解し、修正するには、目の前に見えている事実だけを頼りに作業を進め、必要ならすべてを実験してでも確認するという根性と判断が必要だ。この完全主義的執拗さは直列システムを前にするとき必須の要件だと僕には思える。日常的、一般的なアプローチで解決できるような話はそもそも自分のところに来る前に片付いているはずだ。

世間一般のほとんどのものは自律協調分散の進んだ並列多重化システムになっており、何か一点がおかしくなっても全体はそれほど狂わない。だから対処も現象合わせで良いし、そもそも何かを完全に直すのは困難だ。しかし直列システムでは何か一点がおかしい場合すべてがおかしくなるし、その一点を直さなければ問題は何も解決しない。だからコンピュータやネットワークのような直列システムを扱うものたちの行動基準は世間一般の人の価値判断からかなり離れたところにある場合が少なくないし、見ようによっては病的に映るだろうと僕は思う。

この作品では恐らくは観客の感情移入のためだろう、主人公のクラッカーにはそれほど病的な要素を見せず、逆に正義感や子供への愛情などをもたせている。それでもある程度以上、それが自己中心的な方向で歪んでいたりしてリアリティを感じさせるし、全体として楽しめる方向によくできていると思う。本当に絶望的な映画を作っても見ている方が辛いだろうし。
このあたりがクラッカーを作品中で「良い役」で描くのに妥当な線かと思う。

話を戻して、このヒュー・ジャックマンハル・ベリーの二人は、再び『X2』(X MENのシリーズ二作目)で顔を合わせる予定らしい。もうストーム役は彼女しかいない。楽しみだ。

Report: Yutaka Yasuda (2002.03.07)


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