Cinema Review

メトロポリス

監督:りん たろう
作者:手塚 治虫
声:井元 由香、小林 桂、岡田 浩暉

犯罪者を追って日本からメトロポリスにやってきた刑事は不思議なロボットと出会う。

原作手塚治虫、脚本大友克洋。これだけで見ると決まってしまった。しかし外れた。少なくとも物語としてはどうにもテンションの上がらない、僕のココロにひっかからないものだった。

非常に CG っぽい CG によって未来世界の一部が描かれていて、一部このあたりが奇妙に美しかったりする。これと手塚さん独特の曲線美を感じる手塚キャラは全く異質のもので、合わないはずのものだ。まあ逆にシュールに浮いて決まっていると言えなくもないが。

筋書きは大友克洋とは思えない食い足りなさだ。最後に少女が落ちていくシーンでも、大切なものを失ってしまう、という喪失感をそれほど感じない。
今、テレビの再放送で『未来少年コナン』をやっている。この作品を見ていると、コナンラナのまっすぐな気持ちが痛いほど伝わる。全力で走り、全力で愛し、全力でたたかう。見ている僕の心にそれはまっすぐに届く。
対してこの作品には、誰かを「大切なもの」と感じるために必要な何かが足りないように思う。

ここまで書いた後、原作を読んでみた。実は買っておいたのだが映画を見るまではと読んでいなかった。手塚さんの漫画は常に大きなテーマをもって描かれている。生前何かのインタビューで「描きたいテーマは幾らでもある」と答えておられた記憶がある。彼の漫画はまず最初に大きなテーマと、明確なメッセージがあった。それを感じる事が出来そうに思った。残念ながらこの映画ではそれが浮かんでこなかった。ありきたりのものは浮かぶのだが、僕の心に元からあったもののように、僕の血の池から湧いてはこなかった。

果たして、うーん、原作はしかし全く映画とは異なるものだった。「世界をほろぼしてしまう」科学技術について、手塚さんはもっと厳しく、暖かかった。こうした部分を描くのはしかし難しいだろうなと思う。残念。

Report: Yutaka Yasuda (2001.08.31)


[ Search ]