Comic Review

シュナの旅

作者:宮崎 駿

小国の王子シュナは金色の実をつける穀物を求めて旅に出る。その道のりは険しいが、遂にシュナは神々の国にたどり着く。感動的な小編。

宮崎駿の心の奥底にくすぶり続けるテーマの、ほぼ原寸大のすがたではないかと思う。漫画という、こつこつ一人で作るしかないシステムの中で、彼の描きたいものをストレートに追求した結果がこの小品ではないか。

この作品で示された自然と人間とのかかわりについてのテーマは、部分的にではあるが『風の谷のナウシカ』『もののけ姫』などを通して何度か映像化されている。ただ、両者には『未来少年コナン』で示された、ひたむきでまっすぐな愛情が含まれていない。
漫画版『風の谷のナウシカ』で示したような全てのいのちに対する愛情と、『シュナの旅』や『コナン』で見せる、たった一人に自らの全てを捧げる気持ちの両者は実は同じものなのだが、僕は後者の表現をとって現れるほうが好きだ。『天空の城ラピュタ』を推薦する理由である。
そしてもう一つ、宮崎駿の世界には多く不条理な社会システムや現象が形をなして現れている。人為的なもの、自然のもの、またその理由の別はともかくとして、だ。
この三つが彼自身の心に根を生やしている柱なのではないかと思う。

そしてこの三つのテーマ、自然と人間とのかかわり、人と人とのかかわり、そして人と社会とのかかわりの三つが、一つの作品に一度に描かれることはそれほどないように思う。(ナウシカに至っては全てを愛する代わりに、誰も愛せなかった。)
この『シュナの旅』ではしかし、これらはすべて不可分のものとして語られる。その意味で実によく宮崎駿の声を届けてくれる。

シュナが奪い取る麦の穂は人間の体からできている。それをもぎ取る時、彼の心には痛みがはしり、神々は叫び声をあげる。彼は名も知らず恨みすらない人狩りを撃ち殺し、ドレイから生まれた麦を奪い取る。無慈悲で絶対の自然の前では、矛盾こそが人間の本質だと叫んでいるようだ。

『シュナの旅』で少年は命を賭けて少女をまもり、少女はそれに応えて少年を支える。絶対の神、厳しく無慈悲な自然、不条理な社会システム、それらをすべて受け入れ、全力で生きろと彼らは言う。『未来少年コナン』でもコナンは全力で走り、たたかっていた。

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Report: Yutaka Yasuda (2001.06.30)


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