Cinema Review

グリーン・デスティニー

Also Known as:Crouching Tiger, Hidden Dragon、臥虎蔵龍

監督:アン・リー
出演:チョウ・ユンファミシェル・ヨーチャン・ツィイー、チャン・チェン
音楽:ヨーヨー・マ

ひとりの剣客が剣をおいた。火から生まれて数百年、多くの血に塗られたその剣はしかし簡単には眠らなかった。一振りの剣をめぐって何人もの運命が交錯する。

こういうのは武侠映画というのだそうだが、良く知らない。香港映画を余り見ないのだ。この作品は随分と評価が高く、国際的に掛かったと思う。カンヌ映画祭の会場中継でもミシェル・ヨーが黒いドレスを着ているところが映った。広東語が話せなくて恥ずかしいとか言ってたような気がするが記憶はさだかではない。

ロードショーを見逃したが、しかしアンコール上映で、劇場で見た。良かった。チョウ・ユンファが貫禄である。ミシェル・ヨーがぴったりのはまり役である。そしてほぼ出ずっぱりのチャン・ツィイーが実に可憐である。彼女の映画はこれがはじめてだが、本当に華奢な体を振り回して剣士役をこなす。かなりトレーニングはしたのだろうが、ここまで決まるのはもう殺陣の技術だろう。インドアで薄刃の長剣を振り回し、男どもを薙ぎ倒すというのはその筋のマニアがシビレそうな状況だが、(僕も含めて)そうでない方々にもその姿は実にカッコ良い。
わりに早いうちにミシェル・ヨーと激しく打ち合うのだが、これもなかなか良い。彼女のアクションは何と言うか決まる。骨がしっかりしてるというのだろうか。

ところで結局のところ、この作品はその枠組のセンスの良さが効いていると思う。

映像をすこしくすんだ調子にして歴史もの風に、つまり現実感を薄くしている。それも上映前に掛かっていた他の作品の予告フィルムが派手だったために「おや?」と思った程度の微妙な抑え方だ。この色の中で、竹の葉の緑が実にみずみずしく映えるから不思議。

そしてアクションシーンの、この度を超した非現実さ。垂直の壁を駆けあがり、屋根をかるがると飛び越える。香港映画のこうした非現実さは大抵すごいが、この作品ほどにもなれば人によっては引くだろう。
僕はラスト・シーンでこの点についてようやく納得した。この作品はファンタジーなのだ。谷に身を投じ、空を飛ぶチャン・ツィイーを見て、これはファンタジーなのだとようやく思い至った。その瞬間、脳裏に残る全てのシーンが寓話の高みに昇華する。ああ、なんて気持ち良いんだろう。

全てを説明しない展開。格闘シーンの音楽(太鼓)などに見られる抑えた演出。ゆるやかな弦の音。大スター、チョウ・ユンファをほとんど動かさず、喋らせず、逆に貫禄たっぷりに見せる余裕。いつもながらの泣かせるストーリー。そこにはめ込まれる非現実的だが芸術的ですらあるアクション。香港映画が積み重ねてきたものが、落ち着いた新しい枠組の中で見事に光る。その静と、動が印象に残った。珍しくもう一度劇場で見ても良いと思う。

Report: Yutaka Yasuda (2001.06.21)


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