妻が拳銃で自殺した。男には原因が分からない。ただ拳銃と暴力への憧れだけがエスカレートする。男は暴発したいのだ。
暴発への欲望。僕の心の中にはもうほとんどそんなものは残っていないが、逆に言うとここしばらく僕は余りストレスを受けない環境下にいる。この作品世界のようにザラザラした都市を這いつくばって暮らしていたら、僕もどうなってしまうか分からない。
その昔、ロバート・デニーロが『タクシー・ドライバー』で強烈なサイコ男を演じた。今作、この暴発男を、塚本監督自身が「素」のすがたで演じる。彼は実に普通のサラリーマン的容貌で、この男の中に『鉄男』で見せた高熱の狂気が渦巻いているとはとても想像できない。彼はその姿で執拗に拳銃を手に入れようと試み、ハイキートーンの夜の都市をさまよう。外見の平常さと内面の激情の不均衡が恐ろしい。
一つの拳銃が何人もの人間を暴発へと導く。抑圧と暴発は『ファイト・クラブ』でも描かれていた。そこにはコブシを使って自らの肉体にまとわりついた抑圧を剥ぎ取ろうとする人間がいた。ここでは拳銃と弾丸が人間を破滅の穴へと突き落とす。冷たい鉄と工業オイルの臭いのする都市の穴だ。それは『鉄男』のイメージと再び重なる。
真野きりなは『ユメノ銀河』に出ていた時に、その余りに浮き世離れした雰囲気で印象深かった。今作でも死に憧れる破滅的な若い女を演じる。強大な力によって打ちのめされる自分の姿を見たがっている。いつか見知らぬ誰かに叩き潰されるために生き、そいつに出会うために誰かを殴って日々を過ごす。死ぬのがメチャクチャ恐いと言いながら、今日、自分を潰してくれる奴に会えるかも知れない事にザワザワしている。恐怖に憧れ、それに取り込まれている。
非常に魅力的なキャラクターで、丸めの顔をした彼女にはちょっと合わない。もっとブチ切れた女優はどこかにいないのだろうか。時おり混じる、彼女を写した非常に詩的なシーンでは彼女の細身の体の線がきれいに映えて良いのだが。
どこかでまたこうしたキャラクターに出会えないかなあと、ぼんやり思っている。