Cinema Review

スリーピー・ホロウ

Also Known as:Sleepy Hollow

監督:ティム・バートン
出演:ジョニー・デップクリスティーナ・リッチクリストファー・ウォーケンリサ・マリークリストファー・リー、イアン・マクダーミッド、キャスパー・ヴァン・ディーン、マーク・ピッカリング、ジェフリー・ジョーンズ、ミランダ・リチャードソン

英国、魔女狩りが行なわれていた頃、合理的・科学的な捜査を信条とする捜査官が、首無し騎士の殺人事件を捜査すべく片田舎の村にやってきた。

この物語は西欧では古典的なおとぎばなしの一つなのだそうだ。首のない騎士が毎夜現れ、失われた自分の首を取り戻すまで村人の首を狩る。ゴシック的ホラーだ。
このおとぎ話を現代風、いやティム・バートン風にアレンジして、推理+アクション+時代劇で再構成したのが本作だと思えば良い。この意味では『ヤング・シャーロック 迷宮の伝説』に近いか。つまり単純にホラー映画だと思って見ると物足りない事この上ないが、『ヤング・シャーロック』だと思って見るとすんなり収まるだろう。
この作品の一番の難点はこの見る側の「はまり具合」だと思う。座りの悪い作品だと思う人は多そうに思う。完全にハリウッド的娯楽作品になっていながら、観客は座りどころを捜して最後の方までムズムズすることになる。

そういう意味で、一歩間違うとただのB級作品に落ちてしまうはずなのだが、さすがに作るスタッフが違うと出来上がりも違う。(一緒に見に行った連れが「本当に首なし騎士が首を切っていたというのが良かった」と言っていたが、確かにこれを「偽装殺人」としていたらB級行き決定だった。)
キャスティングは特に一級だと思うが、そのなかでも最大のヒットはクリスティーナ・リッチだろう。
彼女は以前からエキセントリックな役ばかりやっており、僕が最近に見た彼女は『ラスベガスをやっつけろ』のジャンキー家出娘だ。そして雑誌などに登場する時の彼女はひどい(本当にひどいと思う)格好をして太った下半身を見せびらかしていたりする。おとぎ話に出てくるお姫様というには、なんとも遠いイメージ。

しかしティム・バートンというのはすごい監督で、この彼女をお姫様的役柄にぴったりと見て抜擢、下半身など影も見えないコスチュームを着せて、完璧なファンタジーのヒロインに仕立てている。
恐らく僕と同じように、観客のうち多くの人が「あ、実は似合うんだ」と今更ながら気がついたことだろう。まず顔立ちが向いている。ディズニーの『白雪姫』などを連想してしまう。ある種、現実離れしているのが効いているということか。

また、首なし騎士俳優も良い。誰が扮しているかと言うのは一応伏せられているようなので、ここでも書かないことにするが、僕の好きな彼がやっている。実に似合う。彼はティム・バートンとのコンビも多いように思うが、いつも良い役をやっている。悪役なのだがその存在感が良い。強い印象を残す。

首なし騎士のスタントは『STAR WARS ファントム・メナス』で、ダース・モール役をやっていたレイ・パークだそうだ。殺陣はさすがというところで、剣の振り回しが日本風でなく西洋風なのが良かった。西洋の殺陣で余り良いと思う事はないのだが、この作品は結構いけていると思う。
(本物の刀の殺陣を見たければやっぱり日本の時代劇、とは思うけれども。実際砥ぎ済まされた刃渡り60cmを超える鋼鉄を瞬時に抜き、一撃で相手を骨ごと両断したという事実を考えると、往時の町中などは人間兵器で溢れていたと想像される。もしそこに居合わせた時の恐怖心は、西部劇の撃ち合いとは桁違いだろうと思う。)

ジョニー・デップは珍しく周囲になじむくらい目立たない。個人的にはリサ・マリーが気になるところだが、まあここでは置いておこう。

他にセットの雰囲気の良さなど周辺の事は幾らもあるのだが、結局、この作品を良いものにしているのはティム・バートンがもっている作品世界のイメージなんだなと思う。結局彼の作品には、いずれもそこにファンタジーがある。『バットマン』『シザーハンズ』『MARS ATTACK!』などなど、いずれも暗かったり悲しかったり気味悪かったりするが、そこにはファンタジーがある。そう感じる、その存在感が重要なのだと思う。
作家に第一に必要なものは、表現力ではないということか。

個人的には僕は彼のファンタジーが好きではないので、どうにも彼の作品は一貫して余り好きにはならないのだが、映画としては良いと思う。多くの人に進められるバートン作品だ。

Report: Yutaka Yasuda (2000.05.06)


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