Cinema Review

ラスベガスをやっつけろ

Also Known as:The Fear and Loath of Las Vegas

監督:テリー・ギリアム
出演:ジョニー・デップキャメロン・ディアスゲリー・ビジークリスティーナ・リッチ、エレン・バーキン

インチキ記者とその弁護士のジャンキーコンビが過ごすラスベガスでの恐るべき日々。

何が理由で見る気になったかと言えば、テリー・ギリアムのためだ。これしかない。彼の作品は極力見るようにしている。その作品世界の奔放なイメージを劇場で浴び、自分のキャパシティを測るのだ。『バロン』『未来世紀ブラジル』は、個人的には『2001年宇宙の旅』と並ぶ大好きな作品だ。
前作『12 Monkeys』がいまひとつフッ切れ度が低かったため、この作品には非常な期待を掛けた。オープニングを見てはじめて比較的日常的な背景の作品だと判り(相変わらず情報無しで見ている)少しがっかりしたのだが、しかし彼はさすがにただものではなかった。ドラッグが生み出す、日常と悪夢の混ざったドロドロの世界をカラッと爽やかに描いて見せた。

冒頭、ジョニー・デップのサングラスに見えないはずのコウモリがばさばさと飛び回る当たりの処理はなかなかクールで良い。何故かティム・バートンの『バットマン』を連想させる。架空のコウモリにビビって彼は何故かハエ叩きを取り出し、辺りをパシパシやりながらロレっている。その絵のバカバカしさが良い。
笑えるエピソードはさまざま織り込まれているのだが、それよりトリップしているジョニー・デップの主観映像が面白い。バーで周りを見たら全員トカゲだったというのが実にシュールで、ある意味この作品での見せ場の一つではないかと思う。それが思いきり作りものっぽいのだが現実味があるという、きわどい絵になっている。このあたり『バロン』などでそうした境界に踏み込み続けた監督ならではの手腕だと思う。決して安っぽくなる事はない。
ラストシーン近く、トカゲの尾を付けてジョニー・デップがフラフラしているのを夢だと思って見ていたら、それは現実だったりして、実に混沌としている。(どこで手に入れたんだそんなシッポ!)

途中、エレベータの中で突然キャメロン・ディアスがチョイ役で出てきて驚いた。何でこんな映画に出てくるんだ、、と思っていたら今度はゲリー・ビジーのチョイ出演だ。それもおかしなゲイの警官役。僕、実はちょっとこの悪役俳優が気に入っている。彼は本当に多くの作品で悪役をやっているが、この作品では短時間ながら、他のどの作品よりも強烈な印象を残したと思う。この二人については実にすごいキャスティングだと思ってしまった。他に誰が出るのだろうと思っていたら、今度は弁護士にだまされてホテルに連れ込まれる、ちょっと足りない少女役にクリスティーナ・リッチだ。彼女はもう年齢的にはまったく子供ではないのだが、あの童顔とそれまでの印象のせいで、どうも子供っぽく見える。それを堂々と逆手に取った確信犯的キャスティングだ。彼女にしてもイメージチェンジを図っている最中のはずなのに、良く出る気になったものだ。

エンドロールにエレン・バーキンの名前があってちょっと驚いたのだが、僕は彼女の顔が判らない。パンフレットを見ると最後に脅されるウェイトレス役だった。これもきっとマニアにとってはギョッとするキャスティングなのだろう。
あと、やはりエンドロールに Medicine という役割の人がちゃんと出ていてなかなか楽しかった。一体どういう風に関わったのか知りたいところだ。僕は薬物トリップの経験が無いので、この作品でのトリップ描写がしっかりしているのか嘘っぱちなのか全く判らないのだが、もし経験者から見てしっかりした描写ができていたとすれば、きっとこの人達の助言によるものだろうと思う。

ところでこれだけは強調したいと思う。邦題の素晴らしさだ。まともにやると「ラスベガスの恐怖と嫌悪」あたりになるかと思う。それ自体そう悪くはないと思うのだが、それ以上にこの邦題はなかなか思い切っていて僕は悪くないと思う。
最初聞いた時「やっつけろとはなんじゃいな」と思い、ただカッコ悪いなあと思っていた。しかし映画を見ていてようやくその意味が判った。彼ら二人はドラッグを片っ端から試し、あちこちで無茶をして、つまり数日間でラスベガスを一丁「やっつけた(片付けた)」のだ。「よーし次のテキは何だ?ロスアンゼルスでも一つやっつけてくるか」という感じだろうか。彼らの暴君ぶりは実にいい加減な「やっつけ仕事」なのだ。
原題に含まれるに違いない宗教的な意味の解釈をどうするべきなのか判らない(肝心な宗教を理解していない)僕にとって、この邦題の語感はなかなか好感度が高い。久々にスカっとするタイトルだ。

Report: Yutaka Yasuda (1999.12.30)


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