退屈な毎日を過ごすサエない男と、これまたサエない女。なぜかふたりはヤクザの大金を持ち逃げすることに。
矢口監督得意の転落ストーリー。得意というか、僕が知るこの人の他の作品は『裸足のピクニック』『ひみつの花園』なので、結局この人は転落ストーリーにしか興味がないんじゃないかという気がするほどだ。
作を重ねる毎に洗練されていっていると思う。普通に楽しめるようになったと思う。ただ成功しているかどうかは僕には良く分からなくなってしまった。
つまり最初の『裸足のピクニック』の転落加減の強烈さ、唖然とする度は非常に高い。次作で少々その傾斜がゆるくなるが、しかし普通にストーリーの流れを追いながら、納得しながら楽しめる余裕ができる。前作では置いていかれそうになる場面もあるのだが、『ひみつの花園』ではかなり素直に流れに乗れると思う。
そして本作ではこのバランスがかなり普通になった感じがする。逆にいうと『裸足のピクニック』あたりではアンバランス感そのものも含めた転落感があるのだが、本作辺りになると安心した転落感となっている。個人的にはこれがいいかどうか分からないが、ひとに薦められるという意味では成功していると考えていいだろう。
安藤政信は最初に『キッズ・リターン』で見たと思った(デビュー?)が、今作ではダサダサ役がけっこうはまっていた。相方の石田ひかりが素晴らしくうまくダサダサ女から魅力のある女性に変わっていったのに対して、ちょうど良いコントラストと思う。
逆に石田ひかりの方が魅力があり過ぎてちょっと見ていて難しくなってしまう点がある。遠慮なく突き落とされる役には彼女はちょっと合わないのだ。できすぎている。
『ひみつの花園』の西田尚美あたりはその点で良いキャスティングだったのかなと思う。遠慮なくドツき漫才の犠牲にできそうなのだ。逆に石田ひかりをガンガン突き落して見るというのもサディスティックで楽しいかとも思うのだが、さすがにそんなことは出来ないのか、かなりおとなしい。
それと引き替えに、彼女は実にはつらつと画面の中で動き回ってくれる。高級ホテルのベッドに飛び込む時の明るさ、髪を切って赤い服に着替えたはなやかさは、ともすれば暗くなりがちな画面を救ってくれる。良いコントラストだ。
ただ矢口監督はこのバランスで納得しているのだろうか?なにかふっ切れないものを感じる。
いつあるのか分からないが、次作に期待したい。その時、矢口監督の本来望んでいる着地点が見えてきそうに思う。