Cinema Review

サイモン・バーチ

監督:マーク・スティーブン・ジョンソン
出演:ジョゼフ・マッゼロ、イアン・マイケル・スミス

サイモン・バーチは、その病院始まって以来の、最も小さい赤ん坊だった。彼は成長するに連れ、自分が神の道具として、わざとこの様に小さな体に生まれたのだと考えるようになる。そして、いつか神の役に立つ日が来る事を信じて、日々を過ごしていた。彼の親友ジョーと、その優しい母親レベッカに囲まれながら。

障害を否定するのではなく、個性として捉え、自らそれを認めて生きていく様は素晴らしい。それ以外の部分を、全く普通の少年として描いた事にも納得ができる。だが、映画としては、私には満足の出来る物ではなかった。

各キャラクターの設定は、良い感じだ。今後の展開を期待させるキャラクター揃い。幾らでもそこでストーリーを膨らませる事が出来そうだ。出来そうなのだ。が、キャラクターに余り深さを感じる事が出来ない。サイモンは別として、彼の周りの人物像はイマイチ表層的な感じを受けた。
まずは、サイモンの両親。彼等が障害を持った息子に対して抱いた葛藤というものが、まるで見えて来ない。「彼等はサイモンを無視する事にした」というナレーションだけで説明が終わるのだ。ある種のリアリティを瞬間でも感じられれば、納得できるのだが。
ジョーについては、彼の私生児としての苦悩がほとんど見えてこないのが、辛い。彼は、本当に私生児としての苦痛を感じていたのだろうか。それほど、父を欲していたのだろうか。この映画の中では、それを見い出す事ができなかったので、ジョーに感情移入する事が難しかった。
レベッカの恋人・ベンにしても、彼女との親密度があまり描かれないので、ジョーやサイモンと「レベッカを愛した記憶を共有する」形で寄り添っていく様子が流れとして見えない。いい人という事は良く分かるが、いい人ってだけでは相手の子供までは愛せないだろう。

そんな中、ジョーの祖母だけが私には面白い存在だった。サイモンの事を罵倒しながら、黒人のメイドを親友・家族として扱う。孫のジョーと娘に対する愛情も深い。こういった多面性が人物像を確かなものにすると思う。他のキャラクターには残念ながら、そういった部分は感じられなかった。

また、サイモンの「神に与えられた特別なプラン」に関しては、ドラマティック過ぎて、ついていけなかった。それまでの淡々と積み上げて来た雰囲気が、ガラっと変わってしまう。まぁ、地味に積み上げて来た設定は収束するのだが…。
終盤では、久しぶりに「ここで泣け!ここで感動しろ!」とせき立てられて、おいてけぼりを食った感覚に陥った。ラスト、エンディングのスタッフ・ロールに被せて流される音楽に至っては、これこそ本当に10年ぶりくらいに途中退場しようかと思わされた。

散々に書いて来たが、前半部分の淡々としてコミカルな少年の日々の描写は、とても好きである。映像はとても美しいし、カメラ位置、カメラワークも個性的な部分が見られて楽しかった。個人的には、とても残念な作品だった。

Report: Jun Mita (1999.08.14)


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