スランプにはまった舞台劇作家シドニーのもとに、作家志望の青年クリフォードから「デストラップ」というタイトルの脚本原稿が届いた。クリフォードは、師匠であるシドニーにアドバイスを求める為に、送ったのだ。だが、その出来があまりにも素晴らしく、シドニーはクリフォードを殺害して「デストラップ」を我がものにする計画を立てる。妻マイラも、最初は嫌がっていたが、最後にはその犯行を認める事に…。
ストーリーに乗せられていく感覚がとても気持ち良い。最後まで釘付けになって見る事が出来た。思わせぶりなセリフや演技・演出・設定のオンパレードで、観る者を飽きさせない作りだ。
そして、前振りや伏線を収束させつつ、何度も予想をくつがえす脚本が面白い。その展開も無駄が無く、ちゃんとしたテンポを作っている。2重、3重のドンデン返しが有る作品だと、最後には節操のないB級臭さが漂う事があるが、この作品はそういった部分もうまく避けていた。
設定に関しても、シンプルで分りやすい。登場人物も、場所も限定されているので、そのまま舞台劇になりそうな映画だった。
ただ、霊能力者ヘルガ・テン・ドープという存在はちょっと気になった。彼女を設定する事により、「今後の展開を想像させる」という形で、観客を映画の中に引きずり込むというのは良く理解できる。そして、それが非常に効果的だった事も私自身が体感した。だが同時に、リアルな人間関係劇の中での彼女の存在は異質で、私はちょっと冷めてしまった感がある。ブラック・コメディーという観点で見れば許容範囲なのかもしれないが、個人的にはこの部分が非常に残念だった。
また、妻マイラ役のダイアン・キャノンの演技が鼻に付く。極端に神経質な女性の役なので、しょうが無いのかもしれないが、舞台劇の様な大げさな演技にイライラしてしまった。他の役者が多少演技が大げさではあっても、キャラクターにリアリティを持たせたのに対して、彼女には実存感を感じない。よっぽど、霊能力者のほうが、「おぉ、こんなオバハン、おるかもしれん」という気にさせられた。もしかすると、この部分にもちゃんと演出意図が反映されていたのかもしれないが。
観ている間はとても楽しく、面白い映画だった。だが、特に映像的に際立った部分は感じられなかったし、幾つか気になる部分も有るので、個人的な評価はちょっと落ちてしまう。ドンデン返し物が好きなら、一度は御覧になられても良いのではないだろうか。