天才的だが生活能力皆無の私立探偵ダリル・ゼロは、交渉役の弁護士スティーブとコンビを組んで仕事をしている。そんなある日、木材王スタークスから紛失したカギの捜索依頼が入った。やがて、スタークスの身辺調査をする内に彼が脅迫されている事が判明。ゼロはアスレチッククラブで知り合った女性救急隊員に目星をつけるが、逆に彼女に心惹かれていく事に…。
ラブストーリー有りのサスペンス映画という、とっても有りがちな内容。その上、アクションシーンも無ければ、ストーリーが猛スピードで展開する訳でもない。だが、逆にそのちょっと気だるい雰囲気が、主人公ゼロのキャラクター気質と相まって心地よい映画を見せてくれた。
何より、ゼロのキャラクターが、この映画を面白い作品にしているのだろう。普段は色男でもないし、人使いも荒い。感情表現がとても下手な男で、その妙なしぐさは見ていて愛らしい程。探偵としての徹底した冷静さと、普段の生活におけるだらしなさを見事に演じたビル・プルマンは、本当にハマり役だ。
また、彼の他のキャラクターとの関わり方も丁寧に描かれていて、その人となりがちゃんと感じられるのも楽しい。特に、交渉役のスティーブンがコンビを解消したいと言い出して喧嘩するシーンは、それぞれの相手に対する愛情表現が面白かった。
「ちょっと御都合主義っぽいかな?」という所も確かに有る。しかし、ストイックで素朴な優しさの滲み出るストーリーが、それを補って余りあるように感じた。
脚本そのものも、細かい伏線と事件が積み上げられていくので、起伏や映画の中での発見が生まれて、私は飽きる事なく最後まで楽しめた。結構、良く出来ているのではないだろうか。
また、ある犯人が赤ん坊を抱き上げるというシーンが有るのだが、このシーンで『ゼロ・エフェクト』という作品がファンタジー的なやさしい視点に包まれている事を教えてくれて、嬉しくなった。あまりにこういうシーンばかりだと、サスペンス映画や人間ドラマとしては興醒めしてしまうのだが、ゼロの推理という形でスッと挿入されたこのシーンには心を奪われた。
音楽の良さも書いておくべきだろう。歌詞の有る音楽が映像にピッタリ合っている作品に、珍しく出会った。勿論、インストゥルメンタルな曲もこの作品独特の軽妙さや洒脱さに拍車をかけていて、良い。この淡々とした映画に飽きる事が無かった一つの大きな要因だったと思う。
その気だるさから、あまり人におすすめはしないが、私にはとても居心地の良い映画だった。ご大層な映画では無いが、ちょっと軽めの小説を読んでいる気分で楽しいのだ。