Cinema Review

アルナーチャラム 踊るスーパースター

監督:スンダルC
出演:ラジニカーントサウンダリヤーランバー

マサラムービーのお約束をすべて詰め込んだお約束映画の決定版。とにかく笑って見るしかない。

ここのところインド映画づいている。すべてスーパースターのせいだ。

初めて見たマサラムービー(インド映画の事をどうやらこう呼ぶらしい。ずっとそうだったのか?最近だけか?)は『ムトゥ 踊るマハラジャ』だった。続いてその二年前の作品『ヤジャマン 踊るマハラジャ2』を見、今回三たびのスーパースターとなった。
スターというのはもちろん主演のラジニカーントのことだ。あいかわらず濃い。そしてヒロインはサウンダリヤー。前二つに主演していたミーナの余りの美しさにほれぼれしたくせに、今作でもヒロインはやはり美しい。ミーナに比べて落ち着きがあると言うか、明るさが無いと言うか、あまりコメディには向かないような気がするが。。
そう、この一連のインド映画を、僕はコメディだと思って見ている。時代劇のようにさまざまな要素を一本に詰め込んだ作品を、コメディだとかなんだとか分類しても始まらないのは確かだ。それはつまり時代劇と言うジャンルに分類されるべきなのだ。マサラムービーはマサラムービーなのだろう。でも僕はこれをコメディだと思って見てしまうのだ。他の人はどうなのだろう。気になる。

それはともかく、この作品最大の驚きはその品質の高さであろう。驚いた事にどの映像もちゃんとピントがあっているのだ。絵がクリアなのだ。
これは冗談ではない。『ムトゥ』などでは特定の広角レンズで撮った絵だけが(パンフォーカスのせいもあろうが)実にクリアな絵で、それ以外のレンズで撮ったと思われる絵は、皆それなりに悪い。ピントがあってないんじゃないか?と思われるところすらある。
ところがこの作品ではどの絵も実にきれいに撮られている。言ってしまうとこれで普通になっただけ、あたりまえ、というレベルなのだが、しかしそれが新鮮に感じられるのだからインド映画は奥が深い。
ちゃんとしてしまったからなのか、『ムトゥ』に比べるとその破天荒度は明らかに落ちている。トンでもないカメラワーク(僕は『ムトゥ』の悪党とムトゥの股をくぐるクレーン移動カットが大好きだ)も無い。本編の決まりシーンの一つであるソーダびん投げも、実にうまく処理されて決まっている。
ただ、なんだかそれが残念でもある。

ところでこの作品、前編と後編(途中に休憩をはさむ)で完全に物語が別物になっている。どうしてこんな構成にしたのか、ちょっと謎だ。悪くはないのだが、なぜこうしたんだろう。まるで『フルメタル・ジャケット』のようだ。

だからこのレビューもここで分断される。

先日、周防正行がインドに行き、その映画産業の盛り上がりに感嘆して帰ってくるという実に分かりやすい、まるで彼の映画のように分かりやすいテレビ番組があった。フジテレビが日曜の昼間に流すのだから、インド映画もメジャーになったものだ。(番組の作りとしては二カ月ほど前にNHKが流したインド映画制作現場風景のものの方が感動的に良かったけれど)
さまざま気になる事があるのだが、予告編だったかオープニングだったかで周防さんは「女優さんについては日本人のきっと多くが美しいと思うだろうけど、どうして男優さんについてはそうではないのだろう」とつぶやいていた。僕も「そうだそうだ」と思い、この謎が明かされるのを楽しみにして待っていた。が、本編中ではこの件は全く出てこなかった。なんということだ。

そう。何度見ても男優はカッコ良くない。じゃあ一枚目を飾るような時代劇俳優がカッコいいかというと、現代的な視点ではやはり余りカッコ良くないのと同じかもしれない。だがラジニカーントをスターとあがめるファンクラブ(何と男が多い)の姿は実にイレ込んでいる。彼に女性ファンというのはいるのだろうか?フジテレビの番組でも、NHKの番組でも、子どもと年配の女性がラジニは凄いとか知事になって欲しいとか言っていたが、若い女性の姿はなかった。どう思うのか知りたい。
僕にとってもラジニはカッコいい存在だが、しかしそれは本当にカッコいいわけじゃない。あのシチュエーションで、あの役回りで、あのアクションで動いてくれる事そのものがカッコいいのだ。これはもう様式美の世界だ。オープニング(お約束で派手な登場をして一曲ガンガン踊ってくれる)の時などは「待ってましたっ、大統領!」という気分になる。
僕にとってはタカラヅカの男役も、歌舞伎のおやまも、それに「待ってました」と手を叩く人の感覚も、全然分からない。様式を汲めない。絵的に不気味なだけだ。これらの人にとってラジニに様式美を感じるインド映画ファンたちは、やはり不気味な存在なのだろうか?

Report: Yutaka Yasuda (1999.09.23)


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