Cinema Review

ホーホケキョ となりの山田くん

監督:高畑 勲
作者:いしいひさいち
声:朝丘 雪路、益岡 徹、中村 玉緒、ミヤコ蝶々

どこかおかしなやまだ君一家の日常を、ぼのぼのと描く。原作は朝日新聞朝刊に連載中の4コマ漫画。

なんとも大変なアニメーションだ。淡い。淡いのだ。絵はとりあえず淡いが、内容も淡い。テーマも主張も淡過ぎて何が言いたいのか判らなくなっていく。
スタジオジブリは宮崎駿と高畑勲の元東映動画ペアで、延々と濃い作品を送り出し続けてきた。絵の密度も濃ければストーリーの展開も密だし、キャラクターや構成の作り込みも実に細かい。キャラクター設定や資料などをまとめるだけで一冊どころか十冊以上の本になってるような気がする。
ところが今作は本当に淡い。もはや薄いと言っても良いかも知れない。ぺらぺらだ。

僕は実は高畑勲の作品が好きではない。『おもひでぽろぽろ』などはまだ何とか見られない事もないが、『蛍の墓』などは子どもたちには見せちゃいけないんじゃないかと何度も思う。公開当時『蛍の墓』と同時上映だったのは『となりのトトロ』だが、これを作った宮崎駿が「子どもたちには心の躍るものを見せるんだ」と言う強烈なメッセージをどこかに書いていた事を思い出す。僕はこちらの意見に賛成だ。
この作品も他の高畑作品のように、子どもよりむしろ大人向け、まさに朝日新聞の朝刊読者層に合うような作品なんじゃないかと思う。むしろ原作の漫画はこうした色を持たず、子どもに素直に受けるような内容が多いのだが、何故か映画となったこの作品は僕が高畑作品から感じる冷たい影、抑制感を残している。
ちょっと考えすぎか。ここまでくるともう偏見かな?

この作品ならではの技術とか、いろいろクローズアップされるところがあるかも知れないが、そんなことは気にしちゃいけない。ぼのぼのと見に行って、へらへらと笑えばいい。そしてぺらぺらになって帰ってくればいいのだ。

(『もののけ姫』は子ども向きではないのでは?という意見があるかも知れない。これは宮崎駿のもうひとつの側面だと思う。漫画版『風の谷のナウシカ』でも見せた、彼自身のうちにある姿のひとつじゃないだろうか。他の全作品を作り出したがために、遂に彼はこれを絞り出さざるを得なくなったんじゃないかと思う。つまりこれは作家として彼が創作活動で流した血なのだ。もちろん子ども向きではないと僕も思う。)

Report: Yutaka Yasuda (1999.09.23)


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