無実の罪を着せられた人質交渉人が、逆に人質をとって、無実を晴らそうとする。
シカゴ警察東地区No.1の人質交渉人ダニー・ローマン。彼は同じ署内に公金横領をしている者がいると、相棒のネイサンに聞かされる。その夜、再びネイサンに呼び出されたローマンが見たものは、既に何者かに射殺されたネイサンの死体であった。警察は、ローマンをネイサン殺しと公金横領の容疑者として告訴する事を決定する。無実の罪を被せられ、人生を破滅へと追い込まれたローマンは、最後の賭けに出る。真犯人をつき止める事を人質解放の条件として、公金横領についての事実を知っているらしいニーバウムを人質に立て篭ったのだ。そして、署内部の人間が信用できなくなった彼は、西地区No.1の交渉人クリス・セイビアンを、この事件の交渉人として指名した。
畳み掛ける様な展開の早さが、この映画の最大の魅力だ。二時間強の上映時間があっという間に過ぎ去り、ほとんど退屈しなかった。いや、実の所、朝一番で『スター・ウォーズ エピソード1 ファントム・メナス』を観た為に疲れていたのか、冒頭のパーティー・シーンで5分程眠ってしまった。実に勿体無い。だが、ふっと退屈な気分になったのはここぐらいのもの。後は、一つの事件が起きているそばから、別の事件の前フリが展開していて、見ている者の目を画面から離させない。ずーっと緊張感が持続して、映画に観客が引きずり回されているようだった。非常に残念な事に、ラスト附近の展開はちょっと盛り上がりに欠け、呆気無いとは思ったが。
この映画の魅力の一つに、際立ったキャラクター描写というのも有るだろう。
例えば、セイビアンの初登場シーンでは、家の中で妻と娘の喧嘩の仲裁もままならないという描き方で人間的な一面を見せ、感情移入のしやすいキャラクターにしている。この様なちょっとしたシーンが、情報屋や、ニーバウムの秘書、一人の狙撃手に至るまで用意され、細かい性格描写がされていく。これにより、各キャラクターがとても理解しやすく、ストーリーにも入りやすかった。また、それぞれが消化不良を起こす程しつこい描写ではなく、そのさじ加減の絶妙さが心地よい。
また、キャラクターにぴったりとはまった役者の演技と、その存在感も素晴らしい。サミュエル・L・ジャクソンとケビン・スペイシーはもとより、その他の脇を固める役者たちのクセの有る演技が、この映画のサスペンス部分に大きく貢献している。それぞれが好演する事で、誰もが犯人に見えて来るのだ。サミュエル・L・ジャクソンの演じたダニー・ローマンの役は当初、シルベスター・スタローンに決まっていたそうだ。何らかの理由で降りたらしいのだが、この映画が成功する為の最大の幸運は、まさにこの部分だったのかもしれない。スタローンでは、知的な交渉人の役は難が有り過ぎたに違いない。
所で、宣伝文句の「IQ180の駆け引き」というのは、ちょっと映画の雰囲気とは異なるのではないだろうか。どちらかと言えば、その場で頭をフル回転させるというよりは、経験をぶつけ合っている印象。熟練の交渉人が今までに積み上げて来た持てる限りの職人技を、それぞれの方法で出しまくるという内容だろう。当然、それを悪い印象だとは思わない。逆にプロ同士の駆け引きという印象を与えて、個人的には楽しかった。ただ、ちょっと宣伝で期待していたものと方向性が違ったので、疑問を感じたのだが。
地味な印象の映画だし、気になる点も有るのだが、見始めれば凡百のアクション映画などよりもよっぽど興奮して引き込まれる事は間違い無い。色々な方に楽しめる映画なのではないだろうか。