Cinema Review

ソドムの市

監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
出演:パオロ・ボナチェッリ、アルド・バレッティ、ジョルジュ・カタルディ

第二次世界大戦下のイタリア。大統領をはじめとする四人の権力者達は、選りすぐりの美少年美少女と共に一つの邸宅に閉じこもった。そして、少年少女たちは、レイプ、スカトロ、殺人とエスカレートしていく権力者たちの性の玩具として犠牲になっていく。

ピエル・パオロ・パゾリーニ監督の遺作にもなった問題作。観終わった後、目眩がした。非常に気持ちの悪い、胸焼けのする映画。ただ、気持ちが悪いとは言っても、映像の直接的な残酷さとしては、今時の残酷描写を見なれている分にはそれほどでもない。いや、前評判を聞いていただけに、ちょっと肩透かしを感じた程だ。
だが、この映画は実に気持ちが悪い。描かれている内容は極端に特化された、まさに死へと至る一方的な性欲・快楽の地獄なのだが、映像の湿度が高くなる事は無く、かなり無機的な美しさが全編を貫いている。閉じ込められる事になる邸宅内部はほとんどが対称的な構造で、そこで切り取られる映像もラインのはっきりした美しい映像である。それらは行われている事のおぞましい生々しさを感じさせないほどに清潔だ。その距離感によって、観客は映像の中で行われている事に同情するでもなく中間に漂うただの傍観者である事を強要される。
勿論、映像だけでは無く、人物の演技(特に狂言回し役の三人の娼婦は非常に淡々とした印象)、ストーリー、音楽などの描き方全てが突き放した様な無機的な表現を積み重ねていく。

性欲を掻き立てる様な描写を意図したとは到底思えない。実の所、変態映画とは掛け離れた作品ではないのか。逆にハッキリと浮き出るテーマ性がこの映画を見る人間の道徳性を逆撫でする。それは、母親・宗教によって表現される権力への反抗・陵辱と、個人の解放の様に受け止めた。タブーという意識すら捨てて、それらを徹底して純化して見せた事が、この映画そのものを毒素の塊に持ち上げたのだろう。それは、弱者の立場で観た場合カタルシスを絶対に与えてはくれないこの映画の設定に、色濃く表れているのではないだろうか。純化された思想を常人は理解し得ないし、弱者はそのコアからは振り落とされ「人」ではなくなる。そして、自らの性欲・生命欲に自覚的で、強靱な人間のみのパラダイスが描かれたのではないだろうか。

所で、この映画には、あるスキャンダルの噂が付いて回る。この映画に出演した少年とのホモセクシャルな関係のいざこざから痴話喧嘩になり、監督が殺されたというものである。この噂が映画を有名にしている要因の一つだとすら言える。この映画には相応しい妖しくて美しいスキャンダルだが、実際の所は監督の死についてははっきりとしていないらしい。

映画に素直な感動や正義や爽快感を求めているのなら、絶対に見ない方が良い。その視点で得るものは何も無い。逆に映画のなし得る別の可能性を覗きたいなら、お薦めする。

Report: Jun Mita (1999.07.23)


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