939年のイタリア、ユダヤ人のグイドは田舎から街へ出て来て給仕係の仕事に付いた。その街で彼は、婚約の決まった地元の女性教師とお互いに惹かれ合い、駆け落ち同然で結婚する。やがて、息子を授かった夫婦だったが、ナチスに強制収容所へと家族全員が連行されてしまった。グイドは幼い息子を怖がらせずに命を救う為、息子の前でひと芝居うつ事にする。
脚本の伏線や構成がしっかりとしていて、見ていて飽きる事がなく最後まで楽しめた。
場面ごとに独立した笑いを取りながら、全体に幾つもの伏線をちりばめる。特に秀逸だったのが、前半部分雨上がりのオペラ帰りに、将来の妻の前で起こす奇跡の数々。するすると収束していく伏線の気持ち良さは絶品だった。この辺りの上品なコメディとしての質の高さが素晴らしく楽しい。
また、映画全体の雰囲気を壊さない為に意図された事だろうが、収容所での残酷な様子は極力直接的には描かれていない。ナチスに対しての告発的な側面よりも、妻と息子を全力をかけて守った男の生きざまに主眼を置いているようだ。コメディー、いや、ほとんどファンタジーに近い柔らかく温かい雰囲気に包みながら、その実、強烈な悲劇と意志の強さを描く。それが深みをもって観客に共感を呼ぶのだろう。ラストシーンでの笑顔は優しく明るいが、実に哀しい。
所で、ロベルト・ベニーニの大ゲサな演技が当初は非常に気になった。正直に言えばイライラさえする。一人コメディな身のこなしに、ずっと違和感を感じていたのだ。しかし後半、収容所に入ってから、息子が見ていない瞬間の絶望の表情に、その演技の意図がやっと読み取れた。そうか、この落差を演出意図に含んでいたのか…と。この瞬間まで私はグイドにあまり感情移入出来なかったのだが、ずっと理解しやすくなった。ロベルト・ベニーニがアカデミー主演男優賞を受賞した事にも納得がいく。
ただ、以上の様に表現したが、映像的に目を見張る様な所はあまり感じられず、また、予想を超える様な演出や編集に出会えたわけでもない。これも奇抜な表現を極力避けた結果だとは思うが、この為、個人的には人生のベストと思える程の作品には至らなかったし、映画を観たという感動にも至らなかった。しかし、ちゃんと作られた良い映画だとは思うので、見ても損はしないと思う。