Cinema Review

踊る大捜査線 THE MOVIE

監督:本広克行
出演:織田裕二、柳葉敏郎、いかりや長介深津絵里小泉今日子

人気TVドラマの映画版。湾岸署では、警視庁副総監誘拐事件と、インターネットを利用した猟奇殺人事件、署内で起こった窃盗事件とが立て続けに起こり、青島刑事はそれらに振り回されていた。そこへ、誘拐事件捜査の為に本庁の連中が湾岸署にやってくる…。

悪くは無かったが「特別に面白い」とも感じないというのが、正直な感想だった。

そう、面白くなかったわけでは無い。
例えば、警察内部の確執や力関係を、比較的理解しやすい一般企業と同様に扱う事で生まれる、物語への観客の引き込み。そして、そんな御し難い権力構造の中での、主人公と上司との信念と友情を描く様は、十分な共感と解放感を与えてくれる。出て来るキャラクターも、TVドラマの延長上でそのお約束を展開していて、楽しめる。映像と音楽・効果音をシンクロさせた場面毎のテンポの良さも、素晴らしく気持ちが良くて、引き込まれてしまう。

が、物足りない。上記の面白さは、そのほとんどがTVドラマで既に確立したものではないのか?わざわざ「映画」というフィールドに進出しているのに、TVドラマで確立したテンションやレベルを超越するものでも、逸脱するものでも無かった。いや、映画というフィールドで模索しようとしている姿は見て取れたが、それが成功しているとは思えなかった。欲張って詰め込み過ぎて、足を引っ張る部分も見て取れる。

まず気になったのは、バラバラなストーリー展開。
映画という事で、観客を画面に集中させられる為、三つの事件が同時進行して行くパターンを取ったのだろうが、これがうまくない。せっかく各シーンがテンポ良く進んで行くのに、まるで関係無いストーリーが入り乱れるので、テンポが壊されるのだ。しかも、この三つの事件、最後までほとんど絡まずに終わってしまう。
よって、ラストで伏線が収束して行く様な興奮はまるで感じられなかった。これでは、娯楽映画としては、片手落ちなのでは?また、細かいエピソードが多く、故に全体の尺が長いのも疑問である。なぜこの様にエピソードを重ねたのか、その構成上の効果が私にはよく分らなかったし、お陰で描きたい事の中心もいまいちわかり辛く感じた。

次に、迫力、緊迫感に欠ける状況設定。
正直、小泉今日子では役不足だし、その猟奇殺人犯の設定も甘過ぎる。
TV放映を意識しての事か、それとも制作スタッフ側のセンスなのか分らないが、映画の中で犯罪や犯罪者を驚異的な存在として印象付けるシーンが一つも私には感じられなかった。
刑事ドラマ、犯罪映画において、犯罪を憎むべき、立ち向かうべき存在として描く為には、犯罪自体を恐怖の対象と描いた方が分りやすくなると思うのだが、そういう描写に力が無いのはどうした事だろう。妙に綺麗な、物わかりの良すぎる映画と言う印象を拭えない。
このシリーズの描きたい事の本質は、ままならない警察組織の中に積もる鬱屈や葛藤なのかもしれない。なので、意図的に犯罪映画になる事を避けたのかもしれないが、だとしたら、猟奇殺人犯をあそこまでクローズアップする意図もよく分らない。実にあのエピソードだけ浮いている印象を受ける。

以上、そこそこ面白く、特にTVドラマからのファンにはお薦めできるが、TVドラマから抜け出せない作品である事も確か。時間が短く、内容もシンプルな分、TV放映されていたものの方が面白かった気がする…。

Report: Jun Mita (1999.07.23)


[ Search ]