Cinema Review

プレイヤー 死の祈り

監督:キャシー・レモンズ
出演:サミュエル・L・ジャクソン、ジャーニー・スモルレット

妻にも三人の子供にも愛される田舎町の医者ルイスは、パーティーの夜、次女のイヴに浮気現場を見られてしまう。ルイスは、口止めをするが、イヴの心には愛する父への小さい疑念が生まれる。ある日、姉のシシリーが、「父に襲われそうになった」と泣きながらイヴに告げる。イヴは父への怒りから、彼に一つの呪いを掛けてしまった…。

サミュエル・L・ジャクソン製作による映画。
静かで淡々とした映画ながら、グイグイとその作品世界に引き込まれた。
ホラーで、サスペンスで、ファンタジーで、恋愛映画で、ホームドラマで、ヒューマンドラマで…。ジャンル分けをするのも難しい程に要素が入り組んだ映画だが、それが艶やかで官能的な映像や演出でちゃんと一つの映画として成立しているのが素晴らしい。どちらかが浮くでも無く映像と演出が一体化して、なんとも言えない色気が出る。主人公の叔母(未来を予見してしまう超能力者)が出て来るシーンはほとんど素晴らしいが、特に昔の夫達の思い出を語るシーンではゾクゾクした。普通のシーンの中にすっと入り込む非現実的な情景。『黒い十人の女』っぽいとも言えなくは無いが、久しぶりに「こんな見せ方も有るんだなぁ」と感じる事が出来て楽しかった。

この映画の魅力の一つに、出て来る人間像の奥深さというのも挙げられるだろう。個人的に主人公には感情移入がほとんど出来なかったが、周りの人物の描き方がとても良い。
父であるルイスは、地元では名士でありながら、この土地から抜け出る事が出来なかった事にコンプレックスを抱き、自信を取り戻す為に浮気を繰り返す。また、叔母は予見者で有る事にプライドを抱きながらも、夫達の未来を見る事が出来ずに次々に死なせてしまった事に罪の意識と後悔の念を隠せない…などなど。この様な一面的ではない表現に、それぞれのキャラクターが生きている感触を得る事が出来た。
そしてそれは、演じた役者の上手さにもよるだろう。サミュエル・L・ジャクソンは当然の事、イヴを演じた子役ジャーニー・スモルレット、叔母、母親、姉…。ほとんど全ての役者が役にぴったりとはまり、作品世界をそこに有るものとして実感させてくれる。

また、この映画は子供の世界が広がって行き成長して行く様と、大人の少し歪んだ世界とを描いているのだが、これが映画の中で分離を起こさずに済んでいる。子供の観客を意識せずに作っているお陰だろうが、この映画には人間の優しさと同時に、強烈な残酷さ、欲深さもちゃんと表現されている。それが、子供や超能力という危険な要素を扱いながらも、この作品を人間ドラマという一つの方向にまとめ上げているのだと感じた。ラストも実に辛辣だった。

しかし、邦題が悪すぎる。これでは、ただのホラーか、サスペンスを想像してまうのではないだろうか。また、サミュエル・L・ジャクソン製作って事で、アクションファンが見てしまったりするのだろう。それは、観客にとっても作品にとってもかなり不幸な状況だと思う。トータルな人間ドラマの秀作なのに、それを欲している観客の元には届かないなんて。
ちなみに、原題は「Eve's Bayou」。冒頭のナレーションでちょっと出て来る、魔法使いの黒人女性イヴ(主人公達はこの女性の末裔にあたる設定、主人公の女の子の名前でも有る)が所有した入り江から付けられているようだ。

Report: Jun Mita (1999.07.23)


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