Cinema Review

鮫肌男と桃尻女

監督:石井 克人
作者:望月 峯太郎
出演:浅野 忠信、小日向 しえ、鶴見 辰吾真行寺 君枝島田 洋八我修院 達也寺島 進岸辺 一徳堀部 圭亮

変態ホテル経営者の叔父から逃げ出した女と、組織の金に手を出して逃走中の男。追うヤクザ。殺し屋。凝りに凝ったチープなバイオレンスアクション。

僕は浅野忠信は見なくてはいけないことになっているので見た。実は『ねじ式』は見逃している。見なくては。この作品の原作は望月峯太郎の漫画だそうだが、僕は彼の漫画をまったく知らない。ただ、『バタ足金魚』もそうだが、本作もかなり原作から離れているそうだ。

なんとも形容し難い不思議な魅力に溢れた作品だ。とにかくやはり浅野忠信はいい俳優だと思う。再認識した。なぜなら、、、

この映画は脇役のキャスティングがすさまじい。岸辺一徳の冷えた狂気のヤクザも凄いが、頭を白に染めた鶴見辰吾も凄い。彼は最初から最後までサングラスを一度も外さず、顔がまともに見えない。それは姉御的役柄?の真行寺君江も同じで、彼女にいたっては良く画面に出ている割にセリフもほとんどない。説明ゼロ。寺島進は北野武映画でよく出てくるが、ほぼ同じ雰囲気。
そしてこれら癖だらけの脇を押し退けて画面で爆発していたのは若人あきら(なんなんだ我修院達也って?)だ。ともかくメチャメチャに濃く、メチャメチャにクサい。ワザとらしくつながった眉。フッ飛んだ声。話しかた。細かな動き。誰だこんな演出をつけたのは。監督か?こんな若人あきらって今までどっかにあったか?
それまでも奇妙な小ネタが散りばめられていて、笑っていいのか悪いのか悩むところがあった。「ニュー若人あきら」はそうした小ネタ的ポジションに座るのかと思いきや、大技を連発して画面を自分の色に染めてしまう。島田洋八演じる変態ホテル経営者との掛け合いなんか、もう手が付けられない。ソファーでノケぞって島田に迫るシーンは余りのバカバカしさに、ハズしているという事に気が付かないくらいだ。

そしてこの暴れん坊ニュー若人あきらと狭いトイレで対峙して、一歩も退かない浅野忠信はもっと凄い。あのシーンで見せた「素」の感覚こそ彼の本質なんだろうと思わせる。『FRIED DRAGON FISH』で見せたあの冷たい狂気も、『ラブ&ポップ』で見せたスパークも、すべてそこから来るのだ。

今回映画初出演の小日向しえは女優さんとしては悪くないように思う。目を惹く魅力はある。しかし今回はまわりが悪かった。かすんでしまった。ラストに下着姿で走り回ってくれるのだが、そうでもしないとさすがに釣り合わないくらいまわりが派手すぎた。

今作が石井監督初の長編とのこと。もともとCM製作の監督だったらしい。脇役一人一人へのこだわり、余りにも精密な絵や音の作り込み、編集の密度がそうかなと思わせる。今後に期待したい。とりあえず若人あきらはもう勘弁して。

Report: Yutaka Yasuda (1999.03.26)


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