冷酷なバッタ族に対抗するために、用心棒を探しにいく働きアリのフリック。しかし彼が連れてきたのは戦士ではなくサーカスの団員だった。
待っていた。そして見た。実に楽しかった。この一言に尽きる。見て良かった。
この作品は『TOY STORY』に続くPIXARの長編二作目である。僕はもちろんCGの出来を見に行ったのだが、開始早々でそれを諦めた。あまりにも映画として楽しいので、楽しむ方に回ってしまったのだ。
オープニングは一枚の葉が落ちてからのおおきな視点移動を伴う長いワンショットで、いかにもここはディズニー的な構図のものだ。この時点ではまだ「ああ、あの木の揺れる枝と葉はかなりうまく出来てるなあ」などと思っていた。しかしサーカス団の連中が出てきたところでもう駄目だ。面白すぎる。
ラストにバッタの悪役がトリに食べられるのだが、そのトリの幼鳥がまるきり日本製の漫画的ヒヨコのイメージで笑える。本当は残酷なシーンなのだが、このヒヨコのせいでかえって笑えるシーンになっている。まあとにかく楽しかった。見るべし。
僕が一番ウケたのは主人公が街に出てきたシーンだ。画面のあちこちでいろんなキャラクターがてんでにいろんなことをしてる。信号待ちのイエローキャブ(ブンブン)の後ろ姿が妙にツボを押してくれる。最大のヒットはパントマイムをするダンゴ虫の親方みたいな奴で、多分大道芸人のつもりなんだろう。主人公がふっと振り返ると、やおら何本もある手をぱぱぱぱっと出して、「壁」をやりはじめる。この動きが絶妙で本当に面白い。なるほど大道芸人は田舎じゃ商売にならない。このワンシーンで僕はもう笑うことに専念しようと決めてしまった。
この作品はワイドスクリーンなのだが、個人的にはこの街のシーンで一番効果があったんじゃないかと思う。
ストーリーは『TOY STORY』よりはるかにシンプルで、ほとんど直情径行と言う単語が浮かぶようなものだ。子ども向けとしても、ほとんどリアリティを損ないそうなほど単純だ。わかりやすいのかも知れないが、僕には前作の方がよほど良い。
CGに関しては『TOY STORY』よりも一歩進んだなと言う印象を受ける。前作では比較的簡単なモデルだったが、今回はテクスチャを張りまくった上に大量の節点やトゲをもつモデルになっている。動きは全体に自然で、これはCGの進歩というよりはアニメーターがしっかり仕事をしている、という安心感として感じられる。実際はどうなんだろうか。比べるのはもちろん酷なのだが、たとえば『VISITOR』などではモデリングできているだけでアニメーターの仕事がどこにも見えない。
主人公であるアリの表面を粘土っぽい色と風合いにしているが、これは親しみをもちやすい表現として成功していると思う。『TOY STORY』では(技術的見地から現時点ではあたりまえだが)人間の肌の表現がどうしてもできなかったのと対照的。『TOY STORY』ではオモチャの視点で単純化された部屋の中のシーン、今作ではもっぱら草むらの中と、常に背景を単純化してうまく処理する工夫をしている。余り注目されないが、こうしたことが彼らの「うまさ」なんだと思う。
それから、前作では余りなかったモブシーンなどがふんだんに用意されているが、これはPIXARというよりはむしろディズニーの技術なのだろうか。それを除いたとしても、とにかく画面には多くのキャラクターが出て、そしてよく動く。
エンディングにはジャッキー・チェン映画などで毎度見るパターンのNGシーンがついている。学生自主製作映画などで良く見るパターンのものだ。もちろんアニメーション、それもCGでありうる話ではない。わざわざ作ったのだ。これはもうジャッキーや学生映画などに共通の、作品に対する愛情そのものだと思う。もちろん長さで1/3、面積で1/9程度に抑えてレンダリング時間を節約するなどしてはいるが、それにしても手間暇かけた「労作NG」だ。その代わりというか『TOY STORY』の時に見られた楽屋オチ的な遊びの部分はとりあえず見つからなかった。
なんだかとりとめのないレビューになってしまった。僕の記憶ではPIXARとディズニーの提携はとりあえずこの二本分だったように思う。この先どのように展開していくのか読めない状態だ。でも期待している。そう、PIXARにも、ジョブスにも。