Cinema Review

ムトゥ踊るマハラジャ

Also Known as:MUTHU

監督:K.S.ラヴィクマール
出演:ラジニカーントミーナ
音楽:A.R.ラフマーン

歌って踊れる使用人、ムトゥのいくところ嵐吹く!大ヒットを飛ばしたハチャメチャ・マサラ・ムービーの決定版。

見て良かった。危うく見逃すかと思っていたのだが、なんとか間に合って良かった。2 時間 46 分の長編であるが、名調子は息切れすることなく最後まで飛ばし続ける。

オープニングのタイトルバックが水彩画の似顔絵?で、はやくも妙な雰囲気が溢れ始める。そもそも最初に見せてくれる「SUPER STAR RAJNI」というメチャクチャ派手なアイキャッチは一体なんなんだ?(これはどうやら主演のラジニカーントのキャッチフレーズらしい。)
その SUPER STAR ラジニカーント、スターと言うからにはさぞかしカッチョいいニーちゃんかと思いきや、オッサンとは。それもめちゃくちゃに濃い!冒頭の登場シーンでいきなり「ニカッ」と白い歯を見せて、いかにも爽やかに笑ってくれちゃってもう、まったく手が付けられない。どないしたろか、と思っていたら、いきなりピョーンとひとっ飛び(仮面ライダー的ひとっ飛びだぜぇ)で馬車に乗り、歌うは踊るは好き放題。色も黒い(周囲のインド人俳優さんと比べても黒い)が笑顔も濃い。このワザとらしい笑顔に、キラリと光る白い歯の映えること映えること。彼、やたら踊るのだが踊っている間はずーっとこの笑顔、この歯である。もう勘弁して。

この始末の悪いオッサンはおいておいて、やっぱりこの作品はミーナ嬢の美しさが最大の売りだろうから、話をそっちに移そう。

ムトゥ撮影当時 19 歳。全くインド的美人で、古い仏教画に描かれているような女神的美しさ(菩薩的と言うべき?)が全身から溢れている。顔立ちは勿論のこと、その豊満な肉体美はただごとではない。インドでは今でもこの種の豊満さが美の基準なのだろうか。現代的日本美人感覚からは少し外れているので、僕にはこれは様式美として映るのだが、それにしても美しい。
特に彼女の眼が素晴らしく、もうクギづけにされてしまう。彼女の眼は俗に言う三白眼(さんぱくがん)で、白目(しろめ)の部分が非常に大きい。他のインド女優さんと比べても明らかに白目がちだなあと思う。そしてその白目の部分がすごくきれいだ。
白目がきれいと言っても何を言ってるか判らないかも知れない。じっくり見ると、大人の白目は大抵充血気味、というか血管が浮いていて、ある程度は赤い。日本人だと黄色がちだ。ところが面白いことに子供、それも赤ん坊などは皆それより遥かに白い。僕は母が兄の息子を見て子供の白目はきれいだとつぶやいた時、はじめてそれに気がついた。そしてミーナの白い目を見てそれを思い出した。そう。彼女の白目は実にきれいだ。

長い上映時間にエピソードをテンコ盛りに詰め込んでいるが、ストーリーとしてそれほど複雑なわけではない。主演の二人は劇中、突然大勢のバックダンサーを従えて歌い踊り、一曲の間に何度も何度も着替える。このミュージカルシーンは圧巻で、映画とは思えないステージ的な背景を立て、ライトを思いきり浴び、流れる歌声は明らかにインド的だが、曲は思いきりのポップ・ミュージックと、まるで MTV を見るようだ。
そしてヒロインは猫のような高音で歌うように話し、くねくねと舞うように動く。オッサンは思い出したように怒り、ブルース・リーの真似をしたアクションで悪者をブッ飛ばす。特にカーチェイスならぬ馬車チェイスは見ものだ。ベン・ハー007かSPEEDか。意味なくアクションアクション!

この調子で最後まで息切れせずにテンションを保ったまま続くのだから見てる方も疲れそうな気がするが、これが結構大丈夫なのだ。きっと劇場でアッハッハッハと気楽に大声で笑えるからだろう。もっと笑うんだったと今になって後悔している。たまにこういうハッピー・ムービーを見るのも良いもんだ。

注:
三白眼(さんぱくがん):開いた目の左右下側、つまり三方が白い。黒目の下の端が下まぶたと離れている目。人相が悪いということで、美人の条件から外れるとされる。色黒、団子鼻などの、条件的不美人要素の一つ、だと思う(少なくとも日本では)。僕は人相学には疎いので、いわれは知らない。

Report: Yutaka Yasuda (1998.11.05)


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