Cinema Review

妖星ゴラス

監督:本多 猪四郎
出演:池辺 良、白川 由美、水野 久美、平田 昭彦、久保 明、土屋 嘉男、上原 謙、佐原 健二佐多 契子、西村 晃、田崎 潤、志村 喬天本 英世

重さが地球の 6000 倍ある星が地球を直撃する。南極にロケットを並べ、地球の軌道を変えて生き残りを計る、というビックリ無茶苦茶SF。

オールスターである。天本英世も酒場でニヒルに笑うのである。上原謙もでずっぱりなのである。ガス人間役の土屋嘉男も出ている。水野久美も相変わらず妙な色気を発散している。西村晃も志村喬も出るのである。こりゃーすごい。
惜しむらくは佐多契子で、セリフもほとんどないチョイ役なのだ。彼女は『ガス人間第1号』でなかなかいい雰囲気だった。密かな僕のお気に入り女優さんなのだが、出演作がほとんどないのが残念。

そして白川由美の登場である。ほとんど全編出ずっぱり、役どころも良家のお嬢様とあって、ばっちりはまり役なのだ。出るたびに服を変え、和服なんかも着てくれたりする。『美女と液体人間』より更に 4 年後の 1962 年作品であり、その上もともと老け顔なので、ちょっともう若いお嬢様と言う感じはないが、やはり美人は美人だ。
良家のお嬢様役よりもこうなってくると良家の若奥様役が期待されてしまう。そうした役の作品はないのだろうか。

さて、ストーリーがすごい。この作品のストーリーは今まさにロードショー中の『ディープ・インパクト』そっくりだ。同じく『神の鉄槌』が原作なのかどうかは知らないが、隕石ならぬ巨大な質量を持つ星がやってきて地球に衝突する、というものだ。
南極にロケットを大量設置して、それで地球の軌道を変えて脱出すると言う破天荒なアイディアは当時ならではのものか。今なら「大気汚染が」「熱が」「氷溶けて洪水が」「そんなもんで軌道変わるかい」などと考えてしまいそうだが、当時はさすがにそう言った考察はなかったようで、ひたすらゴーゴーと吹きあげるロケットの特撮映像が映る。
思うにこれは当時の科学と、それに象徴される人間の可能性に対するポジティブな思考が反映されているのだろう。僕が子供だった 1970 年頃もこうした雰囲気があったように思う。対して、いまどきの僕らはそうしたものに対して、素直に楽観的な思いを持てなくなってきている、と言うことなのか。こうした雰囲気の中にいる今の子供たちはどう感じているのだろう。

まあそんな事はよろしい。本題はこれからだ。
この映画はあと一歩で単なるトホホ映画になりかけている部分がある。そう、巨大トドのシーンだ。確かにポスターに何か怪獣が映っているのは気がついていた。しかしそれがまさかあんな風に現れるとは。
「ロケットを作ろう」「をうっ」で作りはじめ、出来ちゃった、で、予定通り地球が軌道をずらしていってメデタシメデタシでは何のドラマもない。だから何かトラブルでも起きてくれないと盛り上がりに欠けるのは判る。しかし怪獣が出てきて暴れたらいいと言うものではないだろう。トドのつくりもまたいい加減で、背中にチャック付いてまっせというようなものでは、、うーん困った。こうなると演出意図不明というやつで、コリャ無かった方がよほどましだと思う。それでたいして盛り上がったわけでもなし。

『日本沈没』『ポセイドン・アドベンチャー』『復活の日』などは、追い詰められた状況下での、力を尽くす人間の姿を描いていて良かったと思う。その点でこの作品は住民の葛藤を描くこともなく、どうにも調理不足の不満を感じる。
住民はおおむね普通で、パニックを起こすわけでもなく、冷静だ。この非常時に冷静なのはどうした気分のものか?と、科学者(上原謙)がタクシー運転手(この役者は『用心棒』で調子ものの岡っ引きを演じていた)に問うシーンすらあるが、その返答には葛藤は見えない。
妖星ゴラスが通り過ぎ、再び地球を元の軌道に戻すための困難な作業が待っていると科学者が話し合うシーンで映画は終るが、そこでも「難しいが我々はやらなければならないっ」と言うだけだ。きっとこれまで通り、みんなで頑張ってスルッと解決するんだろうなと思えてしまう。
緊張感なく筋書き通りにスルッと進むパニック映画。なぜそうなってしまったのか、実に残念な作品だ。本多監督どうしてしまったのだろう。

Report: Yutaka Yasuda (1998.09.01)


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