Cinema Review

美女と液体人間

監督:本多 猪四郎
出演:佐原 健二白川 由美平田 昭彦土屋 嘉男
音楽:佐藤 勝

核実験によって体が液状に変化してしまった人間が、東京に出現する。これに犯罪組織の内紛が絡み、物語は息つく暇もなく進行する。

美女というのは若き(この作品は 1958 年)白川由美のことだ。犯罪者と同棲しているナイトクラブの歌手という設定なのだが、それにしては異様に上品なのがアンバランスな気もする。アパートの部屋に三面鏡とテレビがあるのを指して、刑事が「ぜいたくな暮らしだなあ」という意味のことを言うくらいだから、まあ上流クラブの売れっ子の歌手、と言う設定なのだろう。

その白川由美がいろんな服を来て出てくるのだが、これがなかなかグラマーでよろしい。ドレスのウエストが細く、プロポーションを良く見せている。
かなり若いはずなのだが、しかしどうも老け顔のようで、それほど若く見えないのが今一つ残念だ。一応歌姫ということなので、歌うシーンがあるが、あれは生だろうか、吹替えだろうか?けっこうサマになっている。

途中犯罪者の同居人ということで、取調室で詰問されるシーンなどあるのだが、どうも気が乗らない。地下道を悪漢につつかれながら下着姿で歩くシーンもあるのだが、これも今一つ緊迫感を湧かせない。
やっぱり上品過ぎるのが問題か。もっといじめてみたら雰囲気が出たかも知れないが、なにしろラブシーンなんか演じたことがないというだけあって、下着姿でヨロヨロと歩いてくれているだけでも、よしとしなければならない。

幽霊船のようになった漂流船に入るシークエンスは、まるで怪作『マタンゴ』のようだ。あれほど色彩はサイケじゃないが、特撮もなかなか凝っている。この暗い雰囲気は本多監督得意のものだと思うが、作品全体の雰囲気がどうも今一つ集中力を欠いている。つまりどうしても『ガス人間..』に及ばないのだ。
そこには非恋が無い。佐多契子三橋達也が出したような明るい場面とのコントラストがない。液体人間との対決シーンがない。まるで山口百恵が去年の人と比べているようなもんだが(ちょっと年代が違うか)、それにしてももう少し何とかならなかったのだろうか。

顔立ちから見て、白川由美はきっとホラーには向いているはずだ。ホラー映画で叫ぶのはとにかく美人じゃないと駄目だが、特に上品な美人で顔の線がはっきりしている人がいい。のけぞった時の首とあごの線が綺麗に見えるからだ。だから娘の二谷友里恵のようなタイプではちょっとふくよか過ぎて駄目で、やはり若い白川由美がいい。しかしこの作品で彼女は余り叫び声をあげないし、のけぞったりもしない。

うまくするとスクリーミング女優の花も咲いたかと思うと残念だ。

Report: Yutaka Yasuda (1998.09.01)


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