彼女が上京したのは東京の大学に入学してしまった先輩を追いかけてのことだ。武蔵野堂という本屋でアルバイトをしている事だけが判っていた。そして一人暮らしが始まる。
いやまったくどうしたもんだろう。僕は『FRIED DRAGON FISH』以来、岩井俊二と浅野忠信の映画は見なくてはいけない事になってしまったのだが、今回これに松たか子が加わるかと思ってしまった。
しかし、そうはならなかった。つまりどうということ無かったのだ。70分程度の小品だし、非常に何でもない上京した女子大生の一カ月を追っただけという前情報だったが、まったくただそれだけの映画であった。映像的にも特にこれといって見るものはない。謎の映画だ。
『PiCNiC』『Undo』『スワロウテイル』あたりでも、彼の映画には今一つ主題が良く見えないものが多い。僕はどちらかというと映像だけを見ている。そしてこの三作品は映像的にも面白くなかったものだ。『FRIED DRAGON FISH』『Love Letter』『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』などは、逆にそうして気に入った。この『四月物語』がどちらに属するのだろうかと思っていたのだが、どうやら前者の方に入ってしまいそうだ。
僕の希望としては、繊細な情感を追うストーリーとするのなら、もっとリリカルに心情を描写して欲しかった。彼女特有とも言えるイノセントさはその通り現れているが、内にある熱が感じられない。松たか子はそうしたことが望めるキャストだったと思ったのだが、なんだか単なる新人女優のように、ストーリーの中をただ時間とともに過ぎていっていた。
うーん、これでは『20世紀ノスタルジア』の広末涼子の方がお勧めだなあ。彼女はストーリーの中を生き生きと泳いでいた。