男はテレビ局のディレクターだ。誰にでも優しいのか愛人を何人も何人も作ってしまう。ついに女たちは男を殺す計画を立てる。
なんとこんな古い映画を掛けるとは。京都のみなみ会舘で見た。実に面白い。
市川昆と言うと、僕の世代ではやはり『犬神家の一族』だろうか。つまり石坂浩二演じる金田一耕介探偵ものだ。僕はこの市川昆の金田一シリーズが大好きだった。その奇妙な間のカットと、音。光と影の演出は実に個性的で美しかった。
最近市川監督は豊川悦司で『八つ墓村』をリメイクしたが、これはあまり良くなかった。ドロドロしてなかったからか。。。
この作品はそれらより、はるか以前の1940年に作られている。しかし僕が見た光と影のコントラストは、この作品でも同じように生きていた。
ただその内容は思いきりポップで、スピード感のあるものだった。古い映画では最初にまず物語の核心までずばっと斬り込む構成を取ることが結構ある。この作品もそうなのだが、まずこの冒頭部分、夜のシーンの黒さが良い。
全編、ハイキーと言っても良いようなハイコントラストのモノクローム映像なのだが、そのなかで何人もの個性的な女性が入れ替わり立ち替わり現れる。岸恵子と山本冨士子が美人なのは当然として、中村玉緒がかわいらしくて良い。それぞれ皆違う個性で描かれており、それが光っている。ちなみに女性陣がそれぞれの個性を表現しているのは衣装によるところが大きい。各人の衣装が記号的にキャラクターを表現していてなかなかよろしい。
こうした要素をギッシリ詰め込んで、急ぎ過ぎず、失速もせず、テンポ良く進んでいくのはやはり監督の技術なのだろう。
『犬神家の一族』はおどろおどろしい映像のインパクトが強過ぎて、それが一級のエンタテイメントに仕上がっていることを忘れてしまいそうになる。けれど、謎解きのおもしろさ、時代考証のリアリティなども全部含めて、市川監督はそれが楽しめる作品となることを忘れずに追求してきたのだなと思う。その意味で、やはりこの作品は市川監督の作品だと思える。
ところで役名がなかなか人を喰ったものだ。石ノ下市子、風双葉、三輪子、四村塩、後藤五夜子、虫子、七重、八代、櫛子、十糸子と、皆数字並べてある。途中で一瞬だけ出てくる新人女優役の名前が百瀬桃子で、これで打ちどめと言う訳だろうか、それにしてもひどい冗談だ。
ただこれは冗談と言うより勢いと言うやつで、この頃の邦画に共通のイキの良さなんだろうなと僕は思う。まだまだ邦画は勢いが足りないような気がするが、こういった冗談が出せるくらいのイキの良さが出てくることを期待しよう。
面白いことに今回市川昆監督の演出によるテレビコマーシャル『ホワイトライオン』が掛かった。同名の歯磨き粉の宣伝だ。たった数十秒、加賀まりこが歯を磨くだけだが、なかなかよろしい。
市川監督は積極的にテレビに取り組んでいった監督だ。さまざまなドラマの監督をする一方、こうしたコマーシャルもやっていた、と言うわけだ。
(ちょっとまとまりがなくなっちゃったけど、たまにはいいか。)