9月18日(水)6:30開場 7:00開演
つかこうへい事務所 「熱海殺人事件〜モンテカルロ・イリュージョン」
作・演出:つかこうへい F 列 20番
わたしの主観が思いっきりはいったレビューですので、そのつもりで読んで下さいませ。
あの日は当日券で入ったのですが、前から6列目中央席で観ることができました。2年前に一度観たこのお芝居がどんなふうに変わっているのか楽しみにしていましたが、やっぱり変わっていました。
わたしのお目当ては山崎銀之丞さんでした。この人はわたしにとって、ヴィスコンティ監督の『地獄に堕ちた勇者ども』(The Damned)にでているヘルムート・バーガーを想い起こさせてくれる役者さんです。奇麗にお化粧したその目には怪しさがいっぱいです。怪しい目つき&色気というのは役者さんの必須アイテムですね。2年前は短かったその髪も今年は適当に伸びて、茶色でサラサラです。それに身体も幾分か細くなったようでした。犯人・大山金太郎役の銀之丞さんは客席の中ほどにあるドアから登場し、舞台まで暗いなかをスルスルソロソロと歩いていくのです。とっても謙虚な登場シーンです。そして、やおらマイクを手にしたかと思うと、しみじみと哀愁いっぱいに歌いだしたのでした。この人は歌って踊れるひとです。セリフを言うときもスピードがあって緊張感があてリズムがあります。あーこれよね。わたしが求めていたものは。まるで音楽を聞いているみたいな心地よさです。
このお芝居は犯人・大山の登場とともに益々もりあがりをみせてくれます。みなさん気持ちよさそうに5・6曲ほど歌ってくれました。なんで歌うのかなんて知りません。そして、わたしがいつも、どうすることもできないくらい胸が締め付けられる思いをするのは、終幕近く、部長が大山を本気で、花束でたたき、殴り、大山は部長の靴を死にもの狂いで磨く儀式のシーンです。もちろん、映画『パピヨン』のテーマ曲がいつも大音量で鳴り響いているのです。花束でたたくのですから当然、花びらは床に落ちて散らばります。部長は大山の最後の花道のために花びらの絨毯を敷くのです。それが木村の美学です。なぜでしょう。哀しい優しさがあります。
水野さん役の平栗あつみさんはセリフの言い方や動きが凛としていて素晴らしいです。ほんとうに涙を流していたのが印象的でした。
速水さん役の山本亨さんの魅力はその瞳です。ちいさいのでよーく見てみましょう。
部長さん役の阿部寛さんは2年前より身体が引き締まったように思いました。その身体はとっても舞台に映えてみえます。今年はとっても上手くなっていましたが、これからも益々演技に磨きがかかっていくでしょう。
終幕、木村伝衛兵部長刑事の死は、そのまま次の舞台の幕開けを予感させるものであり、そのときは必ずや彼はよみがえるであろうとわたしたちに錯覚させてくれます。また、その希望をもたせて劇場を後にさせくれます。そしてあの取り調べ捜査室に集まってきた人間が皆ある共通した過去をもっていた、そういうのが有無をいわせぬ必然であり、世界であり、宇宙なのでしょうね。
握手でお別れっていうのは美しいですね。映画『眺めのいい部屋』を思い出します。