突如として現れたガス人間が白昼銀行の金庫から現金を強奪。追う刑事の前には何故か日本舞踊の家元の影がちらつく。ただの怪獣映画ではない出来の良さ。
ところで「ガス人間第一号」とあるが、別に二号が出たわけでもなく、劇中でも一号という単語は出ない。タイトルだけ何故か一号なのだ。勢いで付けちゃったのだろうか。そう、勢いが感じられるのはきっと時代のせいだ。
つまりこの作品が公開された1960年と言えば東宝特撮映画全盛の頃ではないだろうか。全編に漂う哀愁と、サスペンスとしての緊張感、絶妙の配役と、なかなかにあなどれない作品だ。その完成度は高い。
ガス人間になってしまった男と、不遇の日本舞踊の家元、藤千代との結ばれない恋を描くのだが、このガス人間の背中には何とも言えない哀愁が漂う。そして藤千代役の八千草薫に差す陰もまた雰囲気があって良ろしい。この二人が定められたように落ちていく道行きに、ガス人間を捕まえようとする若い刑事、その恋人の活発なお嬢さん新聞記者、これらの人達がストーリーに絡み、なかなか緊張感がある。
それを再現する事は勿論出来ないが、今日はちょっと配役を中心に書く事にしよう。
ガス人間を演じる土屋嘉男は、なかなか凄い役者さんだ。彼は黒澤映画でデビューしたが、怪獣映画が好きだったようで、やたら出ている。主演はガス人間くらいだろうが、『電送人間』『透明人間』『美女と液体人間』『怪獣大戦争』をはじめとして多くの東宝特撮映画に出ている。勿論黒澤映画への出演も多くて、『七人の侍』『天国と地獄』『赤ひげ』『椿三十郎』『用心棒』などに出ている。赤ひげの森半平太(赤ひげ医者の助手)役が記憶に残る。
『マタンゴ』『薔薇の葬列』(!)にも出ており、むむ、なかなかやるな。。。
で、このガス人間あこがれの八千草薫が若い。派手さはないが整った顔の美人だと思う。陰のある日本舞踊の家元を演じてなかなかよろしい。これが最後まで作品がチャチにならなかった一つの理由だと思う。恐怖映画は女優が美人でなきゃ絶対駄目というのと同じ。
静かに気品を漂わせて、凛々しくもある。
もう一人の女優さん、佐多契子は元気の良い新聞記者を演じて、これもなかなか良いじゃないか。少し丸めの顔で僕の好みではないが、悪くない。彼女は画面に出てくるたびに、とっかえひっかえ服を変えてくれて、ともすれば暗くなりがちな画面に明るさを加えてくれている。ここもこの映画ではポイントが高い。
その明るく活発なキャラクターと共に、衣装、動きともに変化の少なめな八千草薫と良いコントラストをなしている。
彼女は『妖星ゴラス』にも出ているらしいのだが、他に出演作は無いのだろうか。なかなか良い感じだったので他の作品も見てみたい。
佐多契子の恋人で、共にガス人間を追いかける刑事役は、これまた若い三橋達也だ。エネルギッシュな役回りがマッチしている。季節も夏だし。
そして左卜全が出ている。ちょっと抜けた感じの八千草薫の従者役なのだが、これが何ともナサケナげだ。『用心棒』『どん底』のなさけない役が印象に残るが、今回もバッチリだ。
それから塩沢トキも出ている。これも確かに若いが眼鏡と声ですぐそれと分かる。当時のあちこちの映画に出まくっているような気がするなあ。
これらの人達が活き活きと絡み合いながら、物語はクライマックスに向けて一直線に進んでいく。そしてはかなき二人の恋は大爆発で締めくくられるのだ。ナムサン。