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女盗賊黒蜥蜴（くろとかげ）と、名探偵明智小五郎の対決を描く、美しくも悲しいロマン。
ナルシズム溢れる傑作である。
主演の美輪（1968年当時は丸山）明宏、原作の三島由紀夫は、共にナルシズムにその一身を捧げた人と僕は勝手に解釈している。監督の深作欣二も仁侠映画の人だから、その意味では通ずるものがあるのだろう。また、そうでなければ三島由紀夫が映画化を認めるはずもない。
原作の戯曲も読んだことがないのだが、舞台割り、台詞回しなどはきわめて舞台劇的なもので、非常に嘘っぽいのだが、演劇的と思えば違和感はない。
逆に言えば、映画的には随所に嘘っぽく浮いたところがあるのだが、そのせいで黒蜥蜴のナルシズム、その美的感覚や論理がよく映えてもいる。
黒蜥蜴は明智と対決するうちに次第に心を乱されていく。そして乱れた自分の姿を許せないが為に明智を殺そうとする。しかしそれは果たせず、遂に明智に追いつめられた黒蜥蜴は、自ら毒をあおって死んでしまう。しかしそれは敗北ではない。黒蜥蜴は自身の完璧さを保った。明智に心を乱される事こそ敗北なのだ。そしてその勝利は、明智の見ているその前で、自ら愛する美しき人形の一体となる事で更に完璧なものとなった。
黒蜥蜴に愛されなかった奴隷志願の男は、せめて死後に人形として愛撫されたいと願う。しかし死後、姿こそ愛する人と瓜二つだが、しかし見知らぬ女と共に人形となって虚構の愛の姿（ポーズ）をとる自分を思い描き、そこに新たな美しさを発見して救われる。
これは余りにもストレートな、しかしリリカルなナルシズムなのではないか。何と高貴で余りに脆い自己愛か。
それが三島由紀夫の鍛えられた肉体の中に潜んでいるのだろうか。美輪明宏の厚い化粧の中に閉じ込められているのだろうか。
舞台劇としても三島由紀夫は美輪明宏以外に『黒蜥蜴』の上演を許可しなかったと聞く。この映画を見ると、その理由が分かるように思う。つまり彼らは盟友であり、『黒蜥蜴』は、彼らがその一身を捧げたナルシズムへの証（あかし）なのだ。