バンドから独立したが創作意欲を無くし、田舎でキャベツを作りながら隠遁生活をしている花火(ハナビ)と呼ばれる若い男。不意に現れたヒバナと名乗る少女。彼女は徐々に男の心を開いていく。
静かな映画を見た。劇中、殆ど効果音楽が掛からない。舞台は大半が田舎の畑の中の一軒家で、余計な音の何も無い。静かだ。セリフもそれほどあるわけではない。その中で時折鳴るピアノやハーモニカの音が、僕に大きく聞こえてくる。
きれいなおと。
この作品では主人公の心が開いていく過程で一曲の歌を作り上げるのだが、次の、より良い一音を選ぶことが、どんなに気持ちのいいことなのか僕は初めて知った。つまり音楽の意味を初めて知ったと言う事なのかも知れない。
静かな田舎に響く音楽と風の音。僕はこの音を一年前に聞いたように思う。結婚してすぐに二人で数日間走り回った北海道の風の音だ。広い、さえぎるものの何も無い大地に気持ちの良い風が一日中吹き続けていた、あの北海道の風の音だ。
だから僕のこころは映画の中と記憶の中の北海道と、二つの世界を往き来していた。僕はそうやってこの映画を最初から最後までずっと集中して見た。
思う事は山程ある。けれど、今はただそれだけを書いておきたい。