Cinema Review

トレインスポッティング

Also Known as:Trainspotting

監督:ダニー・ボイル
出演:ユアン・マクレガーロバート・カーライルユエン・ブレンナー

ヘロイン中毒の青年達が汚物にまみれて生きていく様を英国スコットランドを中心に描く。

恐らくほとんどの方々がこう思っているのではないだろうか。
「お酒落な若者が観に行く、お酒落で格好の良い映画。」

正直な所私もそう思っていた。お酒落な「Studio Voice」誌で、これまたお酒落で何だか一時期のフランス映画に出てきそうな表情をした「ただの脇役」ダイアン役のケリー・マクドナルドが表紙になっているのを見た瞬間、悪寒が走るのを感じながら「私は絶対にこの映画を否定する。否定してやる。ああ、大嫌いだ。」と確信したのだから。渋谷のシネマライズで当日券を買う時でさえ、同じ館内でやっている『ファーゴ』とどちらを観るかぎりぎりまで迷っていたぐらいである。
この映画の中には確かにお酒落な要素が詰まっている。服も若者向けの良いものらしいし、音楽もブリット・ポップのベタベタの歌ものが使われてたりして、この辺りには何だか資本主義の腐臭すら感じる。ヘロインと失業率の高さなんていう要素には社会性を謳う偽善さ感じてしまうかもしれない。

だが、そんなことを気にしてはいけない。この映画は笑うつもりで行けば十分楽しめる娯楽映画なのである。周辺要素にだまされてはいけない。こいつはただのバカ映画でしかないのだ。せこくて依存心が強くてわがままで駄目な青年たちが、駄目な人々に影響を受けて、駄目な選択を続けていく様をスピード感と映像づくりで見せていく。こいつに格好の良さや社会の病巣を追い求めてたら、映画の配給会社に捕まってしまう。こいつらにトホホで駄目な人間を観ることが出来れば、それで十分何じゃ無いだろうか。大体この映画ではカリスマ性のかけらも彼らに与えていないのに、何故広告側はこの主人公たちを「クールだ」と言い続けるのか疑問である。映画関係者は何故「この映画から麻薬の恐さと英国の社会腐敗を感じてくれ」なんて発言をしてしまうのか疑問である。映像デザインに凝ったバカ映画で良いではないか。それとも、冗談で言っているのか?

そうそう、絵づくりはとても凝っている。「格好良い」というよりも「面白い」という感じである。注射器の中からの映像は秀逸で美しいし、主人公のレントンがオーバードーズで酩酊しているシーンもすごくバカバカしい。ビートルズのジャケットのパロディーもある。
ちょっと絵づくりとは異なるが、ダイアンの部屋には何とも格好の悪いことにアンディー・ウォーホールの一連のシルクスクリーンを意識した自分の顔の絵が飾ってあったりもする。映像のポップさがインパクトと陳腐さに繋がることがよく分かる。
私は、『勝手にしやがれ』が苦手な方だ。それは、出てくる絵やキャラクターのディティールにシャープさよりも、ねっとりとした「俺って格好良いだろう?」と言ったアピールを感じて、最初から最後まで苦笑し続けた覚えがあるからだ。トレインスポッティングにも似たイメージはあるが、こちらは、シャープなインパクトと情けなさがうまく出ている。その辺りが許せてしまう(笑ってしまう)要因なのだろう。

しかし、それにしても音楽は浮いている。何故にあそこまで歌ものを入れたのか分からない。絵と曲がリンクしてないと感じる部分が多かったのが残念だ。絵づくりにおけるポップさと同じ効果を狙ったのかもしれないが、こちらは成功しているとは思えない。

でも、バカ映画を楽しめる人なら見ておいて欲しい。この映画は笑えないと観ることの価値が半減すると思う。少なくとも、私の観たときはほとんどの人が笑っていなかった。勿体ない。

最後に、ロバート・カーライルが『司祭』でどの様な役をやっていたかを知っていると笑えるシーンがある。ま、そういう細かいところが笑える映画。

Report: Jun Mita (1997.01.16)


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