ポンヌフ橋を寝床にしている無宿の大道芸人と、ふらりと橋に現れて橋に住み着いた女が出会ってからの日々を描く。
僕がビノシュを見たのはこれが何作目に当たるのだろう。とにかくロードショーの頃、彼女の人気は高かった。この映画の評判もよかった。でも僕は結局ロードショーを見ずに、今頃になってビデオで見たのだ。最近良くある傾向だ。いかんいかん。やっぱり映画はロードショーで見なくちゃ。
当時恋愛映画として評価は高かった。最高と言っても良いかもしれない。でも僕が一番注目したのはやっぱり映像だった。全編のハイキーなトーン。暗闇に舞うアレックスの姿、噴き出す炎。真っ白な地下道の中でシンメトリックに張られたポスターに片っ端から付けられる火。女が去り、男はどうしようもなく泥酔して自らの手を撃ち抜く。どれも激しいが冷たい、全く救いの無いシーン。そう、救いが無いのだ。この物語には救いが無い。
男も、女も、それぞれに外の世界に押し潰されながらお互いを求める癖に、お互いの真実を何も共有しない。お互いの行き場の無さを、崩れそうな自分の不安を、自分自身の真っ黒な闇を、ぶつけるような激しさで寄せ合わせている。女は秘密を抱え、男は裏切り続ける。共有する未来などカケラも無い。そして遂に女は男を捨てるのだ。男がポスターを焼き尽くすために付けた火が人を殺す結果となり、彼は刑務所に行く。刑務所に女がやってくるが、そこでは男も女も自分を何一つ変えられない。また繰り返すだけじゃないのか?
約束通り、工事の済んだ雪の降るポンヌフ橋の上で二人は再開するが、僕には彼等に未来があるのかどうか分からない。
荒涼としたポンヌフ橋で二人が飛び交う花火を背景に走り、抱きあうシーンがある。有名な、愛情溢れるシーンだ。でもそれすら今思い返す僕には冷たく思える。ただ、冷たいが激しい、激しい故に更に冷たくて、そしてそれ故に美しいと思えるシーンだ。
うまく書けない。でも僕がもう一度劇場で見直してもいいと思える数少ない映画の一つだ。それだけは確かにそう思える。