Cinema Review

打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?

監督:岩井 俊二
出演:奥菜 恵、山崎 裕太、反田 孝幸、石井 苗子
音楽:REMEDIOS

少年達は打ち上げ花火を横から見たら丸く見えるか平べったく見えるかを確かめるために、遠くの灯台で花火を見ようと考えた。ところが少女が突然少年の一人に一緒に花火を見に行こうと持ちかけた。

この作品は岩井俊二が『Love Letter』を作る前、まだ映画監督デビュー前にフジテレビのドラマとして作られたそうだ。結構話題になったようで、テレビドラマでありながら日本映画監督協会新人賞の受賞となっている。当然というべきか、当時僕は見ていなかった。逆に偶然見てしまった『FRIED DRAGON FISH』の為に岩井俊二が気になって仕方がない僕としては何とか見たいと思っていた作品である。

夏の子供達のある一日を45分で描いた小品なのだが、僕は結構楽しんだ。テレビドラマなのだが、しかし良い加減な絵ではなかったからだ。映像そのものはビデオをフィルムにアップコンバートしたもので、どうしても走査線の粗さや色の悪さが見えてしまうが、それにしても綺麗な映像があちこちにあった。音楽(REMEDIOS)も良い。

ネタばらし的になってしまうので余り書かないが、この作品はストーリーをあっと驚くようなやりかたでちょん切っている。ストーリーが背反的な二つに裂けてしまっているのだ。その説明もない。この作品は「if もしも」シリーズの一話として作られたと言うことだから、ひょっとしたら全話そういう作りなのかも知れないが、岩井俊二だけが作品の構成そのものを「もしも」で裂いてしまったのだとしたら面白い。

しかし奇妙な作品だ。青春映画という訳でもないし、特に冒険も無い。奥菜恵演じる少女一人が目立つが、しかし彼女にストレートにストーリーが集中しているわけでもない。何を撮りたかったのか良く判らない。
パンフレットは「友情か、愛情か、永遠のテーマを題材に」云々とあるが、僕はそれは成り行き的なもので主題ではないような感じがする。少年の葛藤や罪悪感など描き込む気もないような感じだし。

奥菜恵だけが眼に付いた。ひとり何か違う雰囲気を発散している。主演は一応少年だと思うのだが、彼がまだ子供子供しているのに対し、同級生としての奥菜恵は当時14歳か15歳か、それにしても大人びている。ちょっと釣り合ってないのが何とも言えない浮いた感じがする。
僕は彼女が服を着たままプールに入っていくシーンが眼に残った。怖がるような、楽しむような表情でゆっくりゆっくりと体を水の中に入れていく。そのゾクゾク感が伝わってきた。
それから、彼女が「あなたも裏切るわよ」と言い残し、少年を置いてかどを曲がった後、母親に追いかけられて連れ去られてしまうシーンが気に入った。ロングショットで落ち着いた雰囲気の絵の中から、突然少女が母親から追われて飛び出してくる。少年は何も出来ない。静と動、夕方で暗めのアースカラーの画面に明るい柄の浴衣、子供達の世界に突然現れる鬼のような表情をした大人。それらのコントラストが僕に衝撃を与える。

岩井俊二は僕の好きなタイプの監督には違い無いと思う。だがもうあとほんの少し、僕に響いて来ない。今回この作品を『Undo』と併映で見たが、やっぱりそう思った。願わくばもう一度『FRIED DRAGON FISH』並のインパクトを僕に!

Report: Yutaka Yasuda (1996.10.05)


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