Cinema Review

フィッシャー・キング

Also Known as:Fisher King

監督:テリー・ギリアム
出演:ジェフ・ブリッジズ、ロビン・ウイリアムズ、


舞台はNY。人気絶頂のDJ、ジャック(ジェフ・ブリッジズ)の発した言葉に、何故か孤独な男が啓示を受けて起こした乱射事件。それに巻き込まれ最愛の妻を失ったが為に精神に異常を来した元大学教授パリー(ロビン・ウイリアムズ)。
フィッシャー・キングはこの二人を中心に展開する、贖罪と救済の物語といえる。
この映画のキーポイントとなるアーサー王物語の聖杯探求エピソードは、素人の僕が今さらとやかく言わなくても、これまでにも多くの人々に読まれ、様々な解釈をされてきた有名なお話である。勇猛果敢で優秀な円卓の騎士達が如何にしても手に入れる事ができなかった「人の傷を癒す聖なる杯」を、聖愚者パジルファルのみがを手にすることが出来たというこのお話のポイントは「無償の愛」又は「献身」、だそうだ。
少し前にあった新宿ホームレス強制撤去事件も記憶に新しいが、生きる目的も居場所も失ったホームレス達が心に深い傷を負っているケースが多いらしい。そこまで極端でなくても、ちょっと自分を振り返ったり他人の姿を眺めていると、意外と人間って不快な心の傷跡が方々に残っているものだなと感じることが結構ある。心の傷は完全に癒されることは無く、ただ忘却したように見せかけるか、心の隅に追い込んで無かった事にするくらいで、あまり積極的な対処のしようがないのではと思える事も多々ある。(だから嫌な思い出が何かの拍子に蘇ってきて、すごーく嫌な気分になる事って度々ありますよね。トラウマはやっぱり癒えないのかも。)
妻を射殺され、錯乱状態に陥ったウイリアムズ=パリーはそんな過酷な現実を歪曲して解釈する事で、辛うじてこの世に踏みとどまる。耐え難い現実をファンタジー(妄想)で被包する事、彼が選択したファンタジーは大学教授時代の専攻でもあった「フィッシャー・キング=アーサー王」の「聖杯伝説」であった、、、。

なんかこんな書き方をすると、よっぽど暗い映画と思われてしまいそうですが、そんな事は無いのですよ。念の為。恋する男女の映画でもあるし、監督テリー・ギリアムは自分でこの映画の事を「デートの為の映画!」と言い切ったし、、、。恋するパリーが駅の構内で思いを寄せる女性の姿を見つけた途端に、ごった返す人混みが一瞬にして巨大なホールでの大舞踏会に変容する所などは、恋する者の精神風景を上手く表現していて大好きなシーンです。つまり、人が生きていく為には、ちょっとしたファンタジーが必要なのだと言う事です。程度と内容の問題はありますがね。しかもちゃんと最後はハッピーエンドですから、『ブラジル』で暫く落ち込んだ事のある人でも大丈夫!です。

もし「人の(心の)傷を癒す聖なる杯」があれば、世界はもっと優しく、穏やかなものになるでしょう。そんな願いがこの脚本には込められているのでは、と思います。

Report: トニー・柘植 (1996.09.28)


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