作品についての感想を少し。
将来別姫役となる少年が、娼婦の母親により京劇団に里子へ出される下りから物語は始まる。
少年の右手が六本指のために最初入団を断られるが、母親は何としても劇団に入れる為に(即ち、厄介払いをしたいのだ)、その場で六本目の指を包丁で切り落とす。このシーンは非常に象徴的だ。後に男でありながら相手役の覇王に恋い焦がれる青年に成長する少年にとって、この切り落とされた六本目の指が何を意味しているか。母親に切り落とされたその指は、去勢のメタファーに思えてならない。男に生まれたため、娼館ではこれ以上育てることが出来ない(女に生まれていれば娼婦として育てられ、母親の側に居られただろう)と言われて捨てられた少年は、母親に六本目の指を切り落とされた時、精神的な去勢を受けたのだ。それも不完全な形で。男性に生まれた事から親に捨てられた彼は、自分の性に対して否定的なトラウマを背負わされる。その後に尼僧の役に付かせられ、「女に生まれ」と続けなければならない台詞をどうしても「男に生まれ」としか覚えられない少年は、心と体の性が一致しない苦しみに一生苛まれる事となる。
三角関係を演ずる三人の愛憎劇も素晴らしいが、近代中国の歴史を二人の京劇役者の目を通してダイナミックに描く演出の手腕が素晴らしい。特に印象に残ったのは国民党敗走後の中国共産党台頭とそれによる文化大革命が行う歴史と文化の改竄、改変による旧中国の否定の下りだ。中盤で主人公二人が救った捨て子の少年が紅衛兵となり、師匠の二人を告発する。集団ヒステリー状態の紅衛兵のリンチに遭う三人はお互いの恥部を曝露し合う。人間の最も醜く暗い部分を情け容赦無く暴き出すこの下りは、この作品のクライマックスである。
最近の細腰の映画に飽きた頃に、こういう骨太な作品は新鮮だった。