Cinema Review

FRIED DRAGON FISH

監督:岩井 俊二
出演:浅野 忠信芳本 美代子田口 トモロヲ

チンケな探偵事務所に転がり込んできたパソコン・データベースの販売促進員のプーは、何故か1000万円のドラゴン・フィッシュを捜す羽目になる。

先日『PiCNiC』と一緒にこの作品が掛かったので、僕は遂にこいつをもう一度見ることが出来たという訳だ。

数年前の深夜、偶然付けたTVに僕は見入ってしまった。作りが良かったことと、芳本美代子が元気で面白かったこともあるのだが、何より主役の少年にも見える男の狂ったような冷たい、冷たすぎる眼に吸い付けられたからだ。まだ寒い季節なのに少年はいつでもランニングシャツ一枚。部屋はコンクリート打ちっぱなしの広々とした空間で暖房もない。そして冷たく狂った少年。ルナティックな冷たい狂気だ。刺される、、、あの眼に刺されるうううう。

この狂気の少年が僕の頭から離れなかった。次にこの少年を僕が見たのは缶コーヒーのコマーシャルで、そこではサラリーマンふうだった。見て一発で思い出した。そして『幻の光』のふいと自殺してしまう男の役。この時、この男の名前を浅野忠信と知ったのだ。あれから何年も経ったと思ったが雑誌を見るとこの作品は93年とある。では3年しか経っていないのか。長い3年。
(しかし僕は当時、新聞を調べてこの作品のタイトルを『La Cuisine』という名前だったと記憶しているのだ。『お料理』という、ストーリーに関連するタイトルだからあながち間違いではないと思うのだが、雑誌などの記録のどこを見ても『FRIED DRAGON FISH』で紹介されている。)

とにかく、浅野忠信はその眼に秘めた恐るべき雰囲気で僕を引き寄せる。それは『PiCNiC』では無口だけれどある程度「熱さ」を感じられる役柄で丸められた印象だ。最近のスポーツカーのコマーシャルフィルムでは再び冷たい感じを受けるのだが、しかし、やはり僕にとっての浅野忠信はこの作品での冷えた狂気の少年が最高だ。

ところで芳本美代子が結構良いのだ。架空のストーリーでともすれば安っぽく浮いて見えてしまいそうな所を、芳本美代子が思いきりのテンションで救っている。美人ではないし、僕の好きなタイプでもないのだが、しかし愛嬌があって良い。暗い話にリズムと、テンションと、そして明るさを一人で引っ張り込んで元気一杯だ。僕はこれ以外に彼女の映画を見たことがないが、結構当たり役なのではないかと思ってしまった。

僕は『Love Letter』の予告編を劇場で見たとき、これは見なくてはいけないのではないかと思った。岩井俊二という名前を意識したのはそれが初めてだった。残念ながら『Love Letter』はロードショーを見逃してしまったが、しかしいつか必ず見ることになるだろう。そしてそれ以来、岩井俊二作品を見たい見たいと思い続けていたのだが、何の事は無い、この『FRIED DRAGON FISH』こそ岩井俊二作品なのだ。

出会っていたのだ。僕は3年前に岩井俊二と、出会っていたのだ。

※このレビューを書いてから相当経って判ったが、『La Cuisine』はテレビシリーズのタイトルで、その最終話が『FRIED DRAGON FISH』だったようだ。

Report: Yutaka Yasuda (1996.07.13)


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