小国カリオストロ公国の伯爵が修道院から出てきたばかりの大公の娘クラリスとの婚礼準備をしている。しかしこの婚礼の裏には陰謀が渦巻いていた。
宮崎駿監督の長編アニメーション映画が毎年話題をさらっているが、これはその最初の作品と言って良いだろう。一般にはこの次の『風の谷のナウシカ』が異様なまでの絶賛を浴びてしまったが、しかし僕はこの作品の方が遥かに好きだ。宮崎作品最高の活劇である。
宮崎駿は以前から質の高いアニメーションを作り続けていた。TVシリーズの『アルプスの少女ハイジ』などが有名か。しかし僕は活劇が好きで、TVでは『未来少年コナン』が、映画では『ホルスの大冒険』や子供の頃に繰り返して見た『長靴をはいた猫』などが気に入っている。特にここに挙げた東映動画の一連の作品は一般にも高い評価を受けている。TVシリーズの『ルパンIII世』は高畑勲の作品だと思うが、宮崎駿も最初から製作に加わっている。但し彼が加わった最初のシリーズはモンキーパンチの原作に近いイメージで作ってしまったせいか、僅かのクールで打ち切りになってしまった様に記憶している。後にルパンは明るく、悩みのないキャラクターとして復活し現在の人気を博しているが、宮崎駿はこの新しいシリーズには殆ど参加していなかったと思う。しかしTVルパンの最後の数回に、宮崎駿はたっぷり思い入れを込めて絵コンテを切った。『死の翼アルバトロス』と、あと何だったっけ、、、。とにかくこの作品を宮崎駿が作るとなった時、当時一般にはそれほど有名でもなかったが宮崎ファンが狂喜したと言う訳だ。
カリオストロに話を戻そう。僕はこの作品を残念なことに劇場では見逃してしまった。何故そうなったのかは不思議なことに憶えていない。そのせいなのかテレビ放送が掛かる度に見てしまう。
宮崎駿はこれでも手加減してゆっくりゆっくり作ったと言うが、しかし限られた時間にものすごい数のエピソードを詰め込み、まあ凄いスピードで展開して行く。実写ではとても不可能なシーンの連続であるが、そのスピード感でもって不自然さなどを吹き飛ばして見せてしまう。これが活劇なのだと思う。そして僕が宮崎駿に期待しているのはこの空気なのだ。他に活劇としては『天空の城ラピュタ』や『名探偵ホームズ』などが良い。先述の『未来少年コナン』はTV作品としては最高の活劇作品の一つだと思う。
ところでこの作品は幾らか歌劇調と言うか何と言うか台詞回しなど非常にわざとらしい所がある。悪代官に捕まえられたお姫様を救けるために無頼のヒーローが活躍すると言う、過去に1万回も作られ、見たような筋なのだ。そしてその筋書きの上のドライブを僕らは思い切り楽しむのだ。これは作り手と見る側とが同乗したドライブなのだ。本筋から離れることなく、わざとらしくカッコ良く、幾らか予想を外すけれどもしかし裏切りはしないから、安心してこのドライブを楽しむことが出来るのだ。行け行けゴーゴー!それが『カリオストロの城』の楽しみなのだと思う。
この作品は常に最後の台詞が批評の対象になるらしい。僕にはこの銭形警部の台詞は「あなたはドライブを楽しみましたか?」と聞こえる。
いやいやそんなに醒めちゃいけない。その台詞を聴いて白々しいと思っちゃいけない。「うんうん、これよこれ、こうでなくっちゃね」とならなくちゃ、全編見ていた甲斐が無いと言うもんだ。