Cinema Review

攻殻機動隊

Also Known as:GHOST IN THE SHELL

監督:押井 守

21世紀の世界は体の殆どを取り替えたサイボーグと電脳が支配する空間。そこに生まれた対テロ組織攻殻機動隊。

この作品は士郎正宗の漫画が原作だ。確か僕が高校を出てしばらくの頃、高校の後輩が「この漫画はきっと好きやろう」と貸してくれたのが士郎正宗の作品を見た最初だった。『アップル・シード』の第一巻だ。雑誌連載ではなく単行本が思い出した頃に出る形でこの漫画はいまだに続いている。長い年月を経ている為に作品の世界観も変わっている様に感じるが、しかし独特の未来世界を描いていて楽しめる。僕はこの作家が気に入ってしまい、僅かしかない彼の殆どの単行本作品を買ってしまった。様々な世界が描かれているが、中でも思い切り楽しんで描いている感じのする『攻殻機動隊』と『ORION』が好きだ。

映画はしかし予想通り余り面白くなかった。『GHOST IN THE SHELL』と副題が付けられていて期待させたが、やはり作り手が士朗正宗程の収束力のある世界観、即ち強いイメージを持ち得なかったのだろうかなどと思う。原作ではあちこちのエピソードで出てきたシーンが映画では無節操に継ぎ合わされて使われているのも気になった。
ところでテーマ音楽がふっとんでいた。なんだか意味不明の言葉が変な音階で流れる。

士郎正宗が『攻殻機動隊』で描きたかった未来世界は何かと問われてもうまく答えられないが、僕は人間の本質だと思う。つまり体のほぼ全てを機械(ないしは生体部品)に置き換えてサイボーグとなっても人はその本質である自己を失わない。勿論人型をしたロボットも多く居て、もはや人間の定義が崩れかけている。サイボーグ化が更に進んだ世界を彼は『アップル・シード』で描いてもいる。そして『攻殻機動隊』では、人間の存在をゴーストと呼んでいる。ロボットにはゴーストは無いと言うわけだ。このゴーストが人間の脳のノイズなのか揺らぎなのか間違いなのか、それとも「第六感」などに当たるものなのかは判らない。しかしそれが機械と人間の差だと言っているようだ。逆にもしもそこまでうまくアンドロイドを作ることが出来たら、それはもはや人間なのだから人権も認めないとねと彼は言う。
電脳世界では快楽すら合成し、編集し、増幅して楽しめる。現実と仮想に区別は無い。現象とは現実(真実)ではなく表象(観測結果)に過ぎない事が物理の本の中ではなく、日常になったのだ。『JM』で描かれたサイバー世界は単なる仮想現実だったが、士郎正宗はそれよりかなり進んだ世界を描いていると思う。勿論この映画にはそれは殆ど現れてこないが!

Report: Yutaka Yasuda (1996.02.06)


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